生徒21名、9ヵ月間にわたる伴走方式の探究授業
生徒自身が「自分ごととなる課題」を決め、
講師2名と伴走し「自ら深く考える力を養う」探究学習
(静岡県沼津市立沼津高等学校)
9ヵ月にわたる伴走授業方式で、
生徒たちの自ら考える力を育てるご支援ができました。
伴走授業方式とは何で、なぜ始めたのでしょうか
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伴走授業方式とは、生徒自らが「自分ごととなる課題」を設定し、自ら考え解決していく過程で、数ヵ月にわたって生徒と私たちが伴走し、私たちはヒント・アドバイスを提示しながら、生徒は自ら考え、活動し、解決する力をつける経験を支援する方式です。
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なぜ始めたのでしょうか。私たちは「生徒たちが、自ら深く考える力を身につけてほしい」と、常々考えてきました。しかし、これまでの授業は、ほとんどの場合一回限りの一期一会型で、このような力を生徒が身につける支援をすることは困難でした。
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そのような中で、静岡県沼津市立沼津高等学校3年生21名、内村優先生・講師2名が一体となり、合計9ヵ月・Zoom 13回、対面授業6回の伴走授業を行う機会に恵まれました。
具体的にどう伴走したのでしょうか
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3フェーズ(授業設計、内容面深化、発表力強化)に分けて、伴走しました。
内村先生との授業設計フェーズの後、生徒たちはまず、自ら「自分ごととなる課題」を決め、その解決に向けて自ら活動し、最後に発表をしてもらいました。これらの課題に対して講師2名は彼らの活動に対して、答えを提示するのではなく、ヒント、考え方、ツールなどの提供を通じて、生徒自身に考えてもらうようコーチングしました。
発表風景
伴走授業詳細はこちら
伴走授業の成果はどうだったでしょうか
以下のように、「生徒たちが、自ら深く考える力を身につける」という当初の目的は達成できたと考えます。
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生徒からの感想例:「これまでは、今回ほど深掘をするということがなく、最初は正直しんどいなと思っていました。しかし、深掘をし続ける事で、道筋の通った答えが出せました。そして活動を終えた今は、とても達成感を感じています。」
生徒感想の詳細はこちら
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内村先生コメント:「講師は、ヒントは与えるものの生徒に思考させることを常に行っていただけた。だからこそ、生徒は自分の成長として自覚出来ていたのだと思う。深掘することの重要性や、そこを考えるからこそ自分の言葉で語れることを実感してくれた。」
先生からのコメントの詳細はこちら
成功の要因は何だったでしょうか
大きく3つあります:
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非常に熱意のある先生:内村先生は「生徒が自ら考える力をつけるにはどうすればよいか」という一本スジの通ったブレない熱い思いをお持ちで、私たちと真剣かつ柔軟な議論ができました。
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長期間:生徒たちが、自ら課題を決め、悩み、考え、説得力ある発表すること自体時間がかかります。加えて私たちが従来のやり方のように答えを提示するのでなく、ヒント・アドバイス等に留め、生徒たちに自ら考えてもらうため、やはり時間が必要でした。
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小規模:21名の生徒に対して、内村先生および講師2名という非常に密度の高いコーチングによって、生徒ひとりひとりに寄り添った支援ができたと考えます。
中間発表を終えて
これからの展開に向けて
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展開に向けては、大規模(例えば、学年全体)への対応、長期間でなく短期集中方式への対応、長期間の中での授業時間の確保、などを検討する必要があります。
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これらの点については各学校との個別ご相談で柔軟に対応できると考えます。
以上
(根塚 眞太郎、矢ヶ崎 隆二郎)
基調講演と小グループディスカッション
感動を呼んだ基調講演と
150名を少人数グループに分け講師とオンラインで議論
(宮城県仙台第二高等学校)
事前準備 ①「生徒たちから講師一人あたり10個前後の質問を受け取り、講師は十分な準備」
まず、DF側から講師陣の略歴や生徒と議論したい点をまとめて学校側に伝えました。それにもとづいて学校側で班を作り、各班(7人/班)から事前に講師毎に3~4個の質問を作成してもらい、DF側に送付。DF講師はこの質問にもとに、ひとりの講師が30分/班で、3つの班を担当し、生徒側からの質問に答える形で
セッションを準備。この方式だと、各生徒は異なる3講師から多様な話が聞け、講師からすると合計20人程度の生徒と意見交換ができるというわけです。
生徒から寄せられた事前の質問は多岐にわたり、例えば「学歴・経歴はなぜ必要か」「挫折をした経験はあるか。もしあれば、その時立ち直るのに何をしたか」など、私たち大人でも考えさせられるものばかりでした。
事前準備 ②「オンライン授業のため細かな準備」
学校側による細かな手順書作成、それにもとづくDFとの合同リハーサル2回、オンラインが途絶した場合の対策等、かなり緻密な準備をしました。
本番 ①「基調講演は、非常に心打つ内容:夢と志の実現にむけひたすら挑戦された経験」
まず、十河哲朗様〈「三井物産のさかなクン」として名を馳せ、その後他の仲間とともに「サーモン完全陸上養殖事業」に挑戦し、2019年に市場出荷を果たした35歳の株式会社FRDジャパン取締役COO(最高執行責任者)〉
にお願いし基調講演をして頂きました。子どもの頃から大の魚好きで、「魚に関わる道を進みたい」という夢と志の実現に向け、ひたむきに挑戦されたとても心に響くすばらしいお話で、生徒からは多くの感動の声が寄せられた講演でした。
十河様(後列・中央)と仲間の皆さん
(基調講演資料より)
陸上養殖場で育ったサーモンを手に持つ十河様
本番 ②「続いてDF講師が多岐にわたるテーマに関して説明および質疑応答」
DF講師は東京、生徒は仙台で少人数による
質疑応答を含めた授業風景
続いて、私たちDF講師による授業に移りました。
ここでは、事前に学校側から送られていた生徒・各班の質問をもとに、多岐にわたるテーマをDF講師が説明・質疑応答しました。説明テーマのいくつかをご紹介すると、「予測困難(例:入試制度変更、コロナ等)な世の中、必要なのは対応力。そのために、高いアンテナを立て、人生の仮目標を作り、Whyによる掘り下げ、二足のわらじを履く(例:自分の本当にやりたい仕事と、安定した生活できる仕事)」、「仕事は楽しいか、つらいか。仕事を楽しいと感じるために、得意なこと・好きなことを仕事にする、プロのスキルを持つ、常に好奇心を持つ、新しいことを積極的に吸収する」等々。1班あたり30分という限られた時間でしたが、今回は、ひとつの班が平均7人と少人数であったこと、生徒の関心事を「質問」という形で事前に確認しそれをもとに講師が授業を組み立てていたことなどから、活発な質疑応答・意見交換ができました。
フォロー・アップ ①「反省会を実施し、様々な学校側・DF側の改善点を検討」
学校側・DF側関係者が参加し、コンテンツ面および運営面について反省会(Zoom)を実施しました。多くの改善点が挙げられた中で、当セッションの目的の更なる深化と共有化、事前の生徒への指導・意識付けの強化、オンライン授業の様々な工夫等が議論され大変有益な反省会となりました。
フォロー・アップ ②「学校側から高い評価」
以下は、担当いただいた先生からの終了直後のメールの一部です。
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大成功のうちに幕をおろすことができました。なによりも、家路へと向かう生徒たちの一人ひとりの笑顔が、本日のプログラムが大成功であったことを物語っていました。本日のプログラムは、心に希望の火を灯す何よりのクリスマスプレゼントになったと思います。
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十河様の基調講演は、まさに圧巻でした。十河様のお話は、人生に思いを巡らせ始めた生徒たちにたくさんの勇気と希望を与えてくださいました。
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DFの講師の皆様方、例年にもまして熱のこもったセッションとなりました。人生の先輩方からの温かい言葉と情熱を、二高生はしっかりと受け取ったのではないでしょうか。
フォロー・アップ ③「オンライン(Zoom)によるPDは十分実用に耐える」
今回、実施場所は、当初の仙台二高の講堂から、コロナ禍のため、急遽Zoomに変更されました。この変更決定直後、最初のリハーサルを実施したのですが、これがかなり厳しい結果でした。お互いのZoom上の映像がカクカクになったり音声がかなり途切れたり、ハウリング・エコーがあったり、果てはリハーサル中に停電が起こったりと、かなり多くの問題が認識できました。原因を追求し、完璧を狙うのでなく現実的な方法での対処を学校側といろいろ検討し2回目のリハーサルを行い、本番のメドがつきました。いろいろなバックアップ・プラン(例えば、Zoomが完全に途絶した場合等)を準備の上、Zoomによる本番セッションに臨みました。本番では想定内の細かな問題がいくつか発生しましたが、全体的にみれば、かなりよい結果が得られ、オンライン授業は十分実用に耐えると感じました。
以上
(授業支援の会:根塚 眞太郎)
十分な事前打ち合わせをもとにパネル・ディスカッション
高校生の今日的課題(SNS活用の光と影)を
オンラインで250名対象にパネルディスカッション
(東京都小平市 私立白梅学園高等学校)
事前準備 ①「事前打ち合わせによる生徒との目線合わせを重視」
SNSの活用方法にひとつの正解があるわけではありません。ですから、私たち講師が解決策や知見を生徒に伝えるというよりは、パネルディスカッション(以下、PD)を通じて生徒自身に「自分の意見・考え方を持ってもらう」進め方がより適切だろうと考えました。このため、従来以上に生徒との目線合わせ、問題意識合わせが重要と考え、生徒パネリストとの事前打ち合わせを重視しました。
事前準備 ②「事前打ち合わせを通じて生徒たちの考えがどんどん深まっていった」
事前打ち合わせを合計3回実施しました。最初は、先生方のみとDFが参加しZoomで実施。ここでは、先生方のお考え、特に今回のPDを通じて生徒に考えて欲しいこと、そのためにDFに期待される事などを十分議論しました。
2回目は、先生方に加え生徒側パネリスト9名全員とDF側パネリスト4名全員が対面で実施。まずDF側から、1回目の先生方との事前打ち合わせをもとに考えた基調講演素案を簡単にお話した後、9名全員の生徒パネリストからの意見・疑問・考えを聞かせてもらいました。この時、DFパネリストは生徒パネリストたちの発言を聞きながら、「なぜそう考えたの?」「それに対してあなたの意見は?」等の投げかけを行いました。最初は静かだった生徒パネリストたちが次第に生徒自身の課題として、テーマをより深く、自分で考えていく様子が感じられました。2回目事前打ち合わせの最後に、3回目(生徒にとっては2回目)の事前打ち合わせにむけて、今日の議論をもとに、より深く考えてもらうようお願いしました。
3回目では、生徒パネリストたちの意見は、私たちがお願いした以上の、非常に深い内容のものに進化していました。また、内容そのものも、SNSという世界だけでなく、そもそも人と人のコミュニケーションはどうすればよいのだろうという、私たち大人でも非常に重要な内容へと大きく広がっていました。これは私たちにとってたいへんうれしい驚きでした。パネル・ディスカッションすべき内容がより広く、より深くなっていたからです。
本番「生徒パネリストのさらに深い考えに驚かされた」
教室内で基調講演中のDFパネリスト
Zoomにて配信中の様子
迎えた本番(Zoom)では、まずDF講師による基調講演から始まりました。
この講演では3回の事前打ち合わせを踏まえ、そもそもコミュニケーションとは何だろうという話から始まり、コミュニケーション・スキル、自分の意見を持つ人になるための心がけ、そして結論という内容でした。
この講演をもとに生徒パネリストとのPDが始まりました。3回目の事前打ち合わせの内容よりも、生徒パネリストの意見がさらに深くなっており、またまた驚かされました。一般の生徒からもいろいろな質問が出され活発なPDができました。やはりテーマが生徒の身近で今日的課題だったからだと思います。
フォロー・アップ ①「授業の内容をさらに深める振返りシートの重要さ」
PD後の振返りシートの中にはPDの時間内で質問しきれなかった追加質問も多く、DFパネリストが手分けし回答文書を作成し学校に送付しました。
例えば次のような、とても本質的な追加質問およびそれに対するDFパネリストからの回答がありました。
「追加質問:周りの目を気にせず行動するには、どうしたらよいか」「DFパネリストからの回答の一部:
私たちが気になるのは、「他の人の意見そのもの」ではなく、自分への批判・反対だと思うのです。その解決方法としては、まず、違う意見や立場が存在することを認め、次に、自分の意見に筋道を立て、その上で相手の意見をもとに自分の意見を修正することが恥ずかしいことではないと考える、そして最後に他人と意見や選択が異なるその人に対する「感情」を直結させないということ。今も私も苦労しています。でも、数多く体験するうちに身につきます。」
フォロー・アップ ②「改善点もある」
本番では学校側とご相談し下図(拡大可)のような方式としました。パネリスト教室での基調講演やPDはパネリスト教室におかれたPCで撮影し、Zoomで各教室に配信。
また、各教室の一般生徒からの質問も各教室に設置されたPCからZoom経由でパネリスト教室に伝えられました。結果として、パネリスト教室から各教室、各教室からパネリスト教室へのZoomで送受信される映像や音声に一部途切れがあり、対面授業ほどにスムーズな進行とはいきませんでした。これらの点について、DF講師陣で反省会を実施し、様々な改善案を検討しました。この中でも特に重要だと考えたのは従来の授業やPD方式を単にオンラインに置き換えるというより、オンラインでなければできない優れた授業形式(例:チャット機能の活用により生徒の意見をより活発化する)です。これらの点についてはこれから高校側といろいろ協議し改善していけると考えています。
以上
(授業支援の会:根塚 眞太郎)
スマートフォンを活用した海外校へのオンライン授業
モンゴル国の高専3校*へのオンライン授業を開催
*モンゴル科学技術大学付属高専、モンゴル工業技術大学付属高専、新モンゴル高専
近年モンゴルでは、経済成長著しく、先進的な科学・技術に対応できる技術者養成の要望が高まり、日本の支援の下、日本の高専教育システムを導入し、国の発展を支える実践的技術者の早期育成に国を挙げて取り組んでいます。
社会実装を目指す高専教育においては、実務体験に根差した実践的な講義が求められますが、国内では適任者が見当たらず、ディレクトフォース授業支援の会がお手伝いすることとなりました。
「グローバルな視野に立った体験談(成功・失敗談)を伝え、将来の自分たちの役割を見つめる機会を提供する」との趣旨のもと、全6回の遠隔講義を企画しました。
3回目の今回は、『失敗を恐れず、挑戦する!』をキーメッセージに、「超高層ビルを造る」とのテーマで、DF講師若松常美さん(元大成建設)から、ものづくりの醍醐味や挑戦することの大切さについて、語って頂きました。
ご自宅で講義中の若松さん(右)と講義資料
オンライン授業に参加した学生の皆さんや先生方
モンゴルにおいても、コロナ禍で自宅学習を余儀なくされており、今回は約80名の学生と直接自宅を通してのオンライン講義となりました。初の試みではありましたが、事前トライアルを行ったおかげで、当日は、技術的トラブルもなく、また素晴らしい通訳のおかげもあり、ウランバートルと東京との距離感をまったく感じることなく、講義を終えることができました。
日頃聞くことのできない、第一線の体験に基づく、非常に具体的で夢のある興味深い内容に満ちた講義で、Zoomの画面を通して、学生の皆さんの真剣に聞き入る姿が印象的でした。
以下に、今回参加の学生と先生から届いた感想文【原文(日本語のまま)】の一部をご紹介します。
新モンゴル高専機械工学科ムンクジンさん
『初めに、とても有用な講義をしてくれたことにほんとうに感謝しています。モンゴルにはまだ高層ビルがないけど、近い将来に建てられると思います。今は、モンゴルの一番高いビルは、シャングリ・ラというビルです。高さは135メートルです。日本のあべのハルカスと比べれば三倍小さいです。将来、私の国にこのようなビルが多く建てられますように。
… 中略 …
私は機械工学科の学生です。ビルについて知識がほとんどない私は、建築の魅力について知識を得まして世界中の高層ビルについていろいろな情報を読みました。その上、自分の目標のため頑張って、転んでも諦めないで頑張るのがひつようと言う考えをくれたことにありがとうございました。』
モンゴル工業技術大学付属高専建設工学科5年生ビルグーンダライさん
『高層ビルの工法や技術をモンゴルに導入すれば、モンゴルの建設業に重大な刺激になると思います。この講義を聴いて将来、私たちに各分野の知識が求められることをわかりました。例えば将来、宇宙に構造を作るために、宇宙について研究する必要があります。
高層ビルを始め、やり尽くすことがいっぱいあることを感じました。』
モンゴル工業技術大学付属高専建設工学科4年生ムンフマンダルさん
『超高層ビルの講義はとても興味深いでした。私にとって、構造をどうやって耐震構造にする方法がおもしろかったです。免震装置は50階までの構造に使われ、地面から構造に震度を4分の1ぐらい伝えます。残りの震度を積層ゴムが耐えることがとてもすばらしく感じました。また、2023年にサウジアラビアで1000メートル以上のジッダという超超高層ビルが建てられることは最新情報でした。短い期間でしたが、それに限らず幅広い知識を得ることができました。非常に効果的な講義になりました。未来の構造は宇宙になり、高層ビルに使う材料と普通のビルに使う材料の違い、超高層ビルに一番欠かせないものはエレベーターやクレーン等の様々のことについてわかりました。今回の講義は建設分野の話でしたので、とても興味深いで、集中して聞きました。しかし、次回のバイオ系の講義も是非聴きたいと思い、お待ちしております。』
モンゴル工業技術大学付属高専グ・バヤルジャルガル先生
『三高専の学生達向けにオンライン講義をしていただき、本当にありがとうございました。経験豊かなベテランの技術者の話はとてもおもしろくて、学生が授業で聞いたことがない生の話で、専攻している分野でもっと頑張りたいというモチベーションが向上して来たと思います。また学生が技術者の実績を聞いた上で、実践的にという仕事ができるのか想像も付いて来ると思います。将来、技術者になろうとしている学生達がこんな講義を聞いて行く上で、発想が出て来るチャンスや新しい技術に関する知識を与えて、またもっとがんばりたいという気持ちが強くなってくるでしょう。学生だけじゃなくて、教職員にも聞かせていただきたいと思っています。モンゴルの三高専の学生達は1年生から日本語を勉強しているので、日本語で行われる講義は日本語の勉強にもなります。皆さんが実施しているこの講義はモンゴル人の若者達のための大きな貢献になっています。これからもいろいろなテーマで行われるこの講義を楽しみにして待っています。今後ともよろしくお願いします。』
以上
(授業支援の会:盤若 浩孝)