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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2017/4/16(No243)

グルメが愛する国 ロシアより

菅原 信夫

筆者私は、これまでの仕事人生のほとんど40年以上をソ連、ロシアとの業務に捧げてきました。その経験から最近のロシアを、それも「食」の面からご案内したいと思います。

私が慶應義塾大学を卒業して伊藤忠商事に入社したのは昭和49年で、現在65歳です。伊藤忠では最初食糧部門に配属され、食糧庁向けの米国産、カナダ産、豪州産の小麦輸入業務を担当しました。入社1年目の若造が、はるばる太平洋を渡ってきた穀物輸送船を日本の港で出迎えて、会社の代表として荷捌きに立ち会うという仕事が今でもはっきりと記憶に残っています。当時はニューマチックアンローダーと呼ばれる電気掃除機のお化けのようなマシンはまだ一部の岸壁にしかなくて、多くの場合は人力による (はしけ) 取り、と呼ばれる人夫作業で、1つの港に2、3日停泊するのは当たり前でした。毎晩、伊藤忠が作業を依頼した乙仲(おつなか) 会社*の営業係がこの若造を港町にある酒場に招待してくれました。日本という国にこれだけうまい酒と食べ物があることを入社1年目である23歳の春に知ってしまったのです。

アメリカでの語学研修留学で、仕事は穀物輸入からソ連への産業機械輸出、そしてモスクワ事務所への駐在と大きく変わりましたが、美味しい食べ物と旨い酒を求める癖は身体の一部となって、どこに行こうが、生きる元気となって商社マン生活を支えてくれました。

その後、ソ連の崩壊を契機に、伊藤忠を離れ独力で日本とロシアに会社を作り、日本企業向けにロシアビジネスアドバイザーのような仕事をやるようになりました。引き続き「食」への関心が人生の中心にあるためか、ロシアでの最大の仕事は、サントリーのロシア法人の設立とウィスキーのロシア市場への普及活動でした。

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日本航空モスクワー成田線422便のビジネスクラス洋食に採用された「仔牛ほお肉のワイン煮、マッシュポテトと季節の野菜付け合わせ」この牛肉もミラトルグ社が生産したブラックアンガス牛です。

そんな「食」にまつわる業務での最近のヒットを1つご紹介しましょう。2年ほどまえの秋、新たに赴任されてきたJALモスクワ支店の支店長から、機内食の一部をモスクワ搭載として、よりフレッシュな料理をお客様に提供したい、というお話がありました。その頃、ロシアにブラックアンガス牛を持ち込んだパイオニアで、最大の生産者でもあるミラトルグ社のビーフを日本食レストランに紹介する仕事をしていた私は、即座に機内食にロシア産ビーフを使用したステーキメニューをJALモスクワ支店長にご紹介、採用までの長い過程がスタートしました。

東京のフライトキッチンからシェフが出張され、また、JALロンドンの欧州地域責任者の参加など、延べ50名以上の日本側関係者による数回に渡る試食会ののち、昨年春に搭載に対して技術的な許可が出て、そこから価格交渉の開始。

ほんとうに長いプロセスでしたが、昨年7月から無事にモスクワ発東京行きJAL422便には、ビジネスクラスの洋食メニューとしてブラックアンガスビーフのステーキが採用されました。乗客の方々には大変好評で、ほとんどの方が洋食を選択されるため、足りなくなることがよく起こるとか。

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最近のロシアでは、ストーリー性のある店が人気です。
この店は、農家から直接食材を仕入れ、店の半分はその小売店。残りがレストランになっていて、全国から仕入れた食材を使用した健康食が売り。全体を農家に見立てた建物は冬も綺麗です。

実は、今ロシアは大変な「肉」ブームです。ロシア料理で肉料理というと、ポークや鶏、そして羊肉が有名で、多くのメニューがありますが、牛肉が今ほどポピュラーになってきたのはつい最近のことです。

これまでのロシアの肉は、硬くてパサついて、とてもステーキで食べられるものではありませんでした。富裕層向けに西側からビーフが大量に輸入されるのは、まさに2000年頃からです。それに伴い、ステーキハウスが次々にモスクワの街にオープンしてゆきます。「トログリル」「ステーキハウスバイソン」「Goodman Stake House」など、西側からの輸入肉でステーキを提供するステーキハウスが最盛期を迎えた2014年、ミラトルグ社は、自社肉のみを提供するステーキハウスをモスクワの中心部にオープンしました。これが現在、ステーキレストランランキング第2位の「No Fish」というレストランです。

このレストランは、現在大変な人気で、予約を取るのが難しいのですが、それでも毎晩、1、2組の日本人が必ず食事をしている、という話です。それくらいJALで採用されたという事実は日本人を安心させるのでしょう。

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カムチャッカ産の天然物の鮭を販売する専門店。
このような極東産の鮭、イクラがヨーロッパロシアでは大変な人気で、かなりの部分は択捉島の工場から航空便で運ばれています。これを見ても、北方領土の返還がいかに困難か、わかろうかと言うものです。

JALの乗客にお話を聞くと、JALとフィンランド航空の共同運行便で、まず東京からヘルシンキに到着し、その後エストニアなどバルト3国を観光し、最後にロシアに入られるグループが多いようです。皆さん、最後に訪れたロシアの料理がこれほど美味しいとは予想さえしなかった、ということです。先日はドイツからロシアに移動してきた日本人グループに会いましたが、まったく同じ感想を聞きました。ロシア料理というものがなくなりつつあるロシアでは、モスクワ中心部で純粋のロシア料理店を探すのは難しいほどです。したがい、日本人が口々においしいというのは、ロシアの料理、です。そこには、フランス料理、グルジア料理、シベリア料理など、ロシア人が日常お世話になる各地の料理が含まれます。そして、そのほとんどは西洋料理とのフュージョンです。したがい、メニュー的には日本の西洋料理とほどんど変わらないとも言えるのですが、なによりも味付けが日本人向けで、また野菜が多用されるのも日本人には向いているのかもしれません。

ロシア人も日本の料理(日本料理ではありません)に同じような印象を持つのでしょう。現在、モスクワ市内で寿司を提供している料理店は400店舗以上あります。それでも、ブーム最高潮のときの半分ですが。寿司のほか、うどん、ラーメンなどの麺類を提供する専門店、焼き鳥やお好み焼きまで提供する居酒屋など、ほとんどの種類の日本料理店が、大衆向けから高級店まで幅広く営業しているのもロシアの特徴です。やはり、日本料理の味がロシア人にあうのでしょう。

まだまだお話することはたくさんあるのですが、料理というのは、食べてみないとわかりません。また、日本人仲間で話すのですが、ロシアのレストランはサービスが非常に丁寧です。ぜひ、ロシアにおいでいただき、料理分野ごとに発表されているランキング上位の店を食べ歩くことをお勧めします。

唐突な提案ですが、DFでそんなロシアグルメツアーができれば、私も大変嬉しいです。エンドマーク

すがはらのぶお デイレクトフォース会員(1150)
(元伊藤忠商事)

 *乙仲会社: 海運貨物取扱業者の通称。

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