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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2017/2/16(No239)

オペラに魅せられて30年

米田 保晴

筆者1.1989年〜1992年

すべては、1989年2月、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場での出来事から始まりました。オペラ「ランメルモールのルチア」第2部第2幕第2場の狂乱の場でのことです。あの大歌劇場が水を打ったように静まりかえり、ただ聞こえるのは、フルートの高音とからまりながら、柔らかくそして切なく流れる、この世のものとは思えない澄んだ歌声だけです。私の魂は体を離れ、その歌声とともに空中を漂いだしました。その瞬間、私は、すっかりオペラの魅力にとりつかれてしまったのです。

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メトロポリタン歌劇場

それまではコンサートやミュージカル同様、気楽に聴いていたオペラですが、その時以来、私は、他の楽しみには目もくれず、寸暇を惜しんで歌劇場に足を運ぶようになったのです。各作品についての知識を得ること自体もこの上ない楽しみになりました。「ランメルモ-ルのルチア」が、1669年にスコットランドで実際に起きた事件に基づいてウォルター・スコット(英1771-1832)が1819年に発表した小説をもとに、サルヴァトーレ・カンマラーノ(伊1801-1852)が台本を書き、ドニゼッティ(伊1797-1848)がナポリのサン・カルロ劇場のために作曲し、1835年に初演されたこと。ドニゼッティはパリのルネサンス劇場のために仏語改訂版(1839年初演)も作曲しており、仏語版は、フランス人の嗜好に合わせて、筋書きも音楽も一部改訂されていること。あの時ルチアを歌ったのは、マリエッラ・デヴィーア(伊1948-)という世界的なコロラトゥーラ・ソプラノ(華麗な高音域の旋律を技巧をこらして歌うソプラノ歌手)だったことなどを知った上でもう一度同じオペラを観ると、感動がますます深まりました。さらに、ドニゼッティの他の作品も観てみたい、デヴィーアの他の歌も聴きいてみたいといった具合に、オペラへの関心はどんどん深く、かつ広くなっていきました。

その時のニューヨーク滞在は、1992年まででした。その間に、ルチアーノ・パヴァロッティ(テノール、伊1935-2007)の「愛の妙薬」(ネモリーノ役)や「リゴレット」(マントヴァ公爵役)、プラシド・ドミンゴ(テノール、西1941-)の「オテロ」(表題役)(カルロス・クライバー指揮)、キリ・テ・カナワ(ソプラノ、ニュージーランド1944-)の「フィガロの結婚」(伯爵夫人役)、ヒルデガルト・ベーレンス(ソプラノ、独1937-2009)の「ニーベルングの指環」(ブリュンヒルデ役)等々、今から思えば夢のような公演を、数々堪能することができました。

2.1992年〜2004年

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マリインスキー劇場

日本に帰国した1992年から再度ニューヨークに赴任する1998年までは、オペラの実演に接する機会はめっきり少なくなりましたが、レーザーディスクやビデオで楽しみました。この頃の実演としては、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で「蝶々夫人」を観ることができたのがいい思い出です。また、出張で欧州の各都市を訪れた際には、分刻みのスケジュールの中、朝食前にタクシーで1人その都市の歌劇場に行き、建物を背景に写真の自撮りをして満足していました。

1998年から2004年までの再度のニューヨーク滞在では、銀行3行の合併や、2001年9月11日の同時多発テロなどで、全く余裕がなく、オペラは一時おあずけとなりました。

3.2004年〜2016年

2004年に帰国し、信州大学教授(会社法・商行為法等)として松本市に赴任してからは、オペラ熱が再燃しました。しかし、法科大学院長を務めた7年間(2005-2012)は教育・研究に加えて、大学院経営の仕事が忙しく、せっかくサイトウ・キネン・フェスティバルの開催地にいながら、実演を楽しむ機会は限られました。それでも、2006年夏のサイトウ・キネンのオープニング・パーティに招待され、マエストロ小澤征爾氏とお話しする機会を得たことは、かけがえない思い出です(写真は、その時のものです。小澤征爾氏を挟んで向かって左が私、右が妻です)。

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マエストロ小澤征爾氏を挟んで

2012年に法科大学院長の職を離れて一教授となり、サイトウ・キネンのオペラ「ファルスタッフ」や妻が私の誕生日にプレゼントしてくれた「イーゴリ公」の来日公演を観たりする余裕がでてきました。さらに、再びオペラの世界に戻った私に、嬉しい3つの驚きが待っていました。

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サイトウ・キネン「ファルスタッフ」(2014年8月)

第1に、DVDやブルーレイディスクの普及で、居ながらして、世界中の歌劇場のオペラが、高音質、高画質で楽しめるようになっていたのです。例えば、上記の「ランメルモールのルチア」の仏語版はめったに上演されないのですが、DVD(2002年リヨン歌劇場公演)をアマゾンで容易に入手でき、長年気になっていた伊語版との比較が漸くできました。

第2に、21世紀に入って、新しいオペラがどんどん上演されるようになっていたのです。新規に作曲されたオペラもありますが、それにも増して、今まで各歌劇場のレパートリーになっていなかったオペラが数多く復活されているのです。バロック・オペラ〔カヴァッリ(伊1602-1676)、ペルゴレージ(伊1710-1736)、リュリ(仏1632-1687)、ラモー(仏1683-1764)、ヘンデル(独英1685-1759)等〕、大作曲家によるオペラでありながら上演の機会がほとんどなかったもの〔ハイドン(墺1732-1809)、シューベルト(墺1797-1828)等〕、ナチスの迫害により上演されなくなっていたオペラ〔ツェムリンスキー(墺1871-1942)、ブラウンフェルス(独1882-1954)等〕などが復活上演され、DVD等で容易に楽しめるようになっているのです。また、有名オペラ作曲家の作品で従来あまり劇場では演奏されていなかったものも、次々と上演されており、今では、ヴェルディ(伊1813-1901)、プッチーニ(伊1858-1924)、モーツァルト(墺1756-1791)、ワーグナー(独1813-1883)は、全オペラ作品をDVD等で観ることができます。ロッシーニ(伊1792-1868)、ドニゼッティ(伊1797-1848)、ベッリーニ(伊1801-1835)、リヒャルト・シュトラウス(独1864-1949)、マスネ(仏1842-1912)、チャイコフスキー(露1840-1893)、ヤナーチェク(チェコ1854-1928)、ブリテン(英1913-1976)などもかなりのオペラ作品がDVD等に収録されています。

第3の驚きは、世界の大歌劇場の公演が、ほぼ同時に、日本の映画館で観ることができるようになっていたことです。例えば、メトロポリタン歌劇場の1シーズン20数作品中の10作品が、上演後1か月以内に、日本の映画館で、日本語字幕付きで観ることができるのです(「METライブビューイング」と呼ばれています)。

4.これから

最近の私は、主に次の2つを楽しんでいます。いずれも、DVD等の普及のおかげで、400年のオペラの歴史において今初めて可能となった楽しみです。

ひとつは、第2次世界大戦後に作曲されたオペラの鑑賞です。『戦後のオペラ1945〜2013』(山田治生編著、新国立歌劇場運営財団情報センター、2013年発行)や『オペラの20世紀 夢のまた夢へ』(長木誠司著、平凡社、2015年発行)を読んで、戦後のオペラの面白さに開眼し、それらの本で紹介されているオペラをDVD等で楽しんでいます。

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映画「ベニスに死す」

もうひとつは、映画とオペラの比較です。例えば、「ベニスに死す」。トーマス・マンの小説(1912年発表)を読み、ブリテンのオペラ(1973年初演)とルキノ・ヴィスコンティ監督の映画(1971年公開)をDVD等で観て、比較するのです。小説、オペラ、映画をそれぞれ単独で楽しむのとはまた別の味わいがあります。「ウリッセ(ユリシーズ)の帰還」「ラ・チェネレントラ(シンデレラ)」「ジョヴァンナ・ダルコ(ジャンヌ・ダルク)」「アッティラ」「マクベス」「椿姫」「オテロ(オセロ)」(伊)、「トリスタンとイゾルデ」「ニーベルングの指環」「サロメ」「モーゼとアロン」「リア王」「メデア」(独)、「ファウスト」「トロイアの人々」「ロメオとジュリエット」「サムソンとデリラ」「シラノ・ド・ベルジュラック」(仏)、「ルスランとリュドミラ」「戦争と平和」(露)、「真夏の夜の夢」「かいじゅうたちのいるところ」(英)、「白鯨」「若草物語」(米)等々、映画と観比べることによって一層楽しめるオペラは沢山あります。

このように、オペラの楽しみ方は無限にあります。私もこの先、字幕を見ないでオペラを原語で楽しめるようになりたいとか、楽譜を見ただけで音楽が聞こえるようになりたいとか、色々と夢があります。寿命が長くなった今、オペラに魅せられた楽しい人生はまだまだ続きそうです。

「ディレクトフォースにはまだオペラ同好会がないので、作ってはどうか」とのお話しをいただくこともありますが、オペラの楽しみ方はまさに百人百様で、グループ活動にはなじまないのではないかとの思いもあります。ただ、同好会とまではいかないまでも、オペラ好きが集まって、居酒屋で、好きな酒を飲みながら、気楽にとりとめのない話をするのが楽しいと思われる方も、ひょっとしたらいらっしゃるかもしれません。もしそのような方がいらっしゃいましたら、yonedayasuharu@gmail.comに是非ご連絡ください。私の他にそのような方が1人でもおられれば、ご意見を伺った上で、一度そのような会を開いてみたいと思います。エンドマーク

よねだ やすはる ディレクトフォース会員(1129)
(元日本興業銀行 みずほフィナンシャルグループ 信州大学)

オペラに関する参考サイト:オペラにご興味のある方は、以下のサイトをご覧ください。

METライブビューイング METライブビューイング最新情報
わかる! オペラ情報館 フランスオペラの楽しみ

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