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一般社団法人 ディレクトフォース

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2015/03/16(No193)

囲碁・将棋とIT時代

飯田 孝司

筆者囲碁名人戦の前夜祭に昨年初めて参加する機会を得て、いつもテレビで見るあこがれのプロ棋士を大勢直接見ることができた。中でも、毎週テレビ囲碁の聞き手を務めている女流棋士とお話しすることもできて、久しぶりの良い日となった。

せっかくの機会なので、前々から聞きたいことがあり、高名な男性ベテランプロ棋士先生にお話しを伺った。「囲碁の対局をするときにパソコンを片手に打つのはルール違反なのですか」と聞くと、そのプロ棋士先生から「そんなルールはあろうはずがない。人格の問題であり、もしそんな人がいたら、それだけの人物とみるだけである」とのコメントをいただいた。囲碁以外の世界はどうなのであろうか。

将棋は囲碁と違って、盤のマス目の数は囲碁の約4分の1で、試合開始から終局までの総手数も囲碁の約半分なため、コンピューター導入の効果も大きい。実際にコンピューターとプロ棋士が対戦すると、囲碁界ではまだ格段にプロ棋士の方が強いが、将棋界では最近プロ棋士がコンピューターにどんどん負けている。

コンピューターの指し手はプロ棋士の指し手実績を基にしているので、プロ棋士以上には絶対に強くならないはずである。ところが、コンピューターは考えるスピードも早く、また決して間違えないのに対し、人間は疲れ・勘違い等により間違えることがある。

したがって、総合力においてコンピューターが人間を上回ることもあり、将棋界ではIT機器とどう向かい合うかは「人格の問題」では済まされない切実な問題となってきている。

コンピュータと将棋
第3回電王戦で菅井竜也五段と対戦するロボットアーム
コンピュータと将棋
囲碁を楽しむ筆者

教育界ではIT機器とどう向きあっているのか。大学の場合、期末試験等においてスマホの持ち込みは許容されていることも多い。学生にとって試験とは「限られた時間の中で自分の知識や知恵を最大限に発揮させる」という点で囲碁・将棋の試合と同じである。試験の時に多くの学生がスマホを辞書・百科事典替わりに活用している。人間の知的活動にIT機器のサポートを許容している。

産業界ではIT機器の活用に勿論制約はない。最近、ITと人口知能を併せた機能により、機械が人間と殆ど遜色ないように考えて行動する「第4次産業革命」が起きつつある。

学界は揺れている。これこそ人間にしか作成できないと思ってきた博士論文も、今や多くの部分をコンピューターが作成できるようになってきた。人間の想像力もさることながら、情報量がものを言う時代で、コピペがいけないとか、他の論文の流用部分が多すぎる等という指摘は意味を持たなくなってきて、「真に価値ある論文とは何か」と学問の基本があらためて問われている。

ITは人間のサポートの時代を経て、確実に人間の頭脳そのものに近づいてきている。

これらを私達の側から見ると、ITが発達してくると私達の活躍できる範囲も限定され、「自分の居場所」も次第に狭くなって来るのではと感じてくる。

先の囲碁の高名なベテランプロ棋士先生に話を戻すと、その時に伺った「碁盤を宇宙に見立てた囲碁談義」はさすが先生の囲碁人生そのもののようだった。

囲碁の井山名人や将棋の羽生名人が次々と繰り出す次の一手に、はらはらどきどきする自分を見て、それが「自分の居場所」と思うことにしている。 マーク

いいだ たかし ディレクトフォース会員(No481) 元新日本製鐵 三菱マテリアル

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