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一般社団法人 ディレクトフォース

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2020/07/16(No.321)

「豊かな人生とは」トリノの街角で学んだこと

 

保坂 洋

我家恒例の夫婦海外旅行、昨年(2019年7月)は北イタリアを旅した。何カ月も前から旅程、訪問先、宿泊場所、交通機関を選んで組み立てていく作業は楽しい。観光名所はほぼ調べた通りの風景で、現物を見て、より深く知り納得という感じ。既成のツアー旅行はこれの連続であろう。しかし、行ってみなければ出会うことが出来ない風景がある。これが個人旅行の醍醐味と思うが、そんな一つをご紹介いたしましょう。

最初の訪問地トリノを散策していた。晴天の土曜日の午後なので、人出が多い。賑わっているカステッロ広場を歩いていると、向こうの街角から歌声が聞こえてきた。若者達がサッカーの応援歌を歌っているような乗りで、盛り上がっている。近づいて行くと、広いアーケードの歩道を占拠して50~60名の人垣ができている。10代の若者からシニアまで、老若男女の殆どの人達が歌っている。

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明るい曲で、皆が歌詞を暗記していてこんなに楽しく揃って歌える歌が日本にあるだろうか。大阪の六甲おろしみたいなものか。もちろん1曲だけではなく、連続する。そして、何よりも驚いたのは、これらをリードしているのが70歳代後半に見えるお爺さんバンドということだ。しかも、彼らの外観は全くカッコ良くないのだ。着古した普段着の薄汚れた服装、顔も体形もハンサム、スマートとは程遠い。集まった群衆をリードするボーカル専門のお爺さんは、少しさっぱりしたシャツとジーンズ姿、小柄で芸能人とはほど遠い容姿だが、大きなジェスチャーで輪の中を回り指揮している。技術の巧拙、格好なんか気にしない!大きな口を開け、実に伸び伸びと、彼らの持っている物を全て曝け出して演奏しているのだ。すると、驚いたことに、十代のかわいい女性が、ボーカルのお爺さんと踊り始めたではないか。合唱は益々盛り上がり、手拍子も加わる。彼らの前に置いてあるギターケースにチップも貯まる。

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隠居しても不思議ではない彼らが、自分達も楽しんで小遣いも稼ぎ、集まった人々をも真に楽しませている姿に、私は少なからず衝撃を受けた。

私に音楽はできないが、自分も楽しみ、他者をも楽しませること、何かできることがあるのではないか。既に後期高齢者となった今、歳だからと思考停止になってはいないか。きっとあるはずだ。それを見つけることを自分の課題にしようと心に決めた。

興奮冷めやらず、角を曲がった。するとアーケードの一角にひっそりと一人のお爺さんが犬と並んで座り、手に帽子を持って、道行く人に差し出していた。しかし、振り返る人は誰もいない。あまりの対照的な姿に愕然としたが、待てよと思った。彼は彼なりに出来る限りでペーソスを醸し出す演出を試みているのではないか。意外なチップをはずむファンがいるかもしれない。一見負け組代表のようなみじめな姿に見えるが、彼は案外休日の街角で楽しんでいるのではないだろうか。

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そうだ、自分が長年培ってきた「持っているもの」を精一杯表現できる場を自ら創ることが、はじけるような喜びをもたらし、人生を豊かに彩ることではないか。「もう良い年齢だし」「もう無理だな」etc.つい自分で作ってしまう壁を取り払おう。家にいると昼寝をしたくなる気だるい午後のひと時も、こうして13時間飛行機に乗り、時差が8時間もある異国の地では、朝から晩まで歩き回っても疲れないではないか。真に好きなことをすればよいのだ。他人からどう思われるかなど関係ない。それが社会に貢献できなくてもよし、貢献できればなおよし。その結論が、家籠りでもよし、外に出ることでもよし。残り多くはない時間を自分に相応しいやり方で過ごそうではないか。そして「生まれてきて良かった!」とこれから何回も感じよう。

トリノの街角で、私の心にスイッチが入った瞬間であった。エンドマーク

ほさか ひろし ディレクトフォース会員(358)DF理事
元東京磁気印刷

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