DF監査役部会 5周年記念研修会 「第2部 小研究会報告」
5周年記念研修会の第2部は、「粉飾決算の防止と監査役」と題して小研究会報告が行われた。研究会メンバーは、リーダー泊久次氏、サブリーダー山本正氏の下、秋山哲氏、上原利夫氏、中田邦臣氏、宮原康彦氏、山本英昭氏、若山忠氏、和角清氏の9名であった。
研究報告の概要は次のとおり。
1.研究課題と研究方法
リーマンショック後の景気低迷・企業業績の悪化の状況下では、粉飾決算で延命を図ろうとすることが多発化する恐れが強いので、経営トップ層が関与する組織的犯罪である粉飾決算の防止が監査役の喫緊の課題であるとの認識から、カネボウ粉飾決算の事例研究と三様監査の実情についてDF監査役部会メンバーにアンケート調査を行い、監査役業務に対して提言を行うことを試みる。
2.カネボウ粉飾決算事件の解析
2-1 事件の概要と判決
- 長期間にわたり、監査法人も巻き込む経営トップの組織的犯罪で、2,500億円以上の粉飾。
- 元社長に懲役2年(執行猶予3年)、元副社長に懲役1年6月(執行猶予3年)監査法人の公認会計士3人に対し懲役1年〜1年6月(いずれも執行猶予3年)
2-2 粉飾の発端と粉飾の特色
- 原綿を販売して糸を買い戻す、親子会社間での商品移動などの商習慣の悪用が粉飾の温床。
- 当初は繊維部門だけの見せかけの業績維持のための小さな粉飾が、毎年の粉飾で累積増大。
- 粉飾の手法は、子会社の連結外し、売り上げの過大計上、費用計上の先送り、不良資産の過大計上、税効果会計の悪用など、特に高度な手法ではなく、内部監査、監査役監査でもある時期には把握されていた。
- 監査法人の公認会計士から粉飾の実態を指摘され是正意見が出た時に、逆に、経営が破綻してしまうので無限定適正意見の監査報告書を出すよう強く要求し、公認会計士も応じた。
- 仲間意識が強く、「和」、「協調」、「摩擦回避」、「人間関係」が重視され、組織内部のルール、行動規範・法規範遵守、は軽視される情緒的な一体感で運営される組織構造を変革できなかった。
2-3 カネボウ粉飾事件を契機とした制度改善等
刑罰の強化:有価証券報告書の意図的な虚偽記載の最高法定刑を5年から10年に引き上げ。
- 企業担当ルールの変更:企業と公認会計士の馴合い・癒着を防ぐため、筆頭業務執行社員は5年、その他公認会計士は7年ルールでローテーションを行うルールとなった。
- 内部統制システムの整備:@法令・定款に適合することを確保する体制整備A業務の適正を確保する体制整備B監査役監査の実効性を確保する体制整備C財務報告の信頼性・正確性を確保する体制整備、を構築することが義務付けられた。
- 社外監査役の独立性の確保:@社外監査役の条件厳格化A社外監査役半数以上
2-4 カネボウ粉飾事件から見た監査役の課題
- カネボウは、内部監査は不正を認識しても黙認状態、監査役は無機能・自己保身、公認会計士も不正会計に直接関与し事実隠蔽に協力してしまうという監査機能の問題以前の最悪な状況に陥ってしまった。
- 監査役は、経営トップの不正防止のためには、内部監査・公認会計士と連帯して三様監査の実効性を高め、高度な判断力と強い勇気を持って行動しなければならない。
3.DF監査役部会アンケート結果と監査役の課題
3-1 アンケート調査の目的と方法
- 調査の目的:カネボウ事件から、監査役は三様監査の実効性を高めることの重要性を論じた。そこで、三様監査の実態を調べるためDF監査役部会に所属する150人のメンバーを対象に実状調査をおこなった。併せて、監査役の任務遂行を妨げている要因や望ましい監査役制度の条件に関しても意見を問うこととした。
- 調査の方法:150人にEメールで質問票を送り、52名から回答を得た。
52名の監査役経験内容は、
監査役現任者 21人
監査役経験者 17人
監査役未経験者 14人(内会社役員経験者13人)
調査回答者は、監査役現任者はDFの紹介で自ら意欲的に就任した人であり監査役業務への熱意と関心が強いということが言える。
3-2 三様監査の実情と課題
- 監査役の社内スタッフ:スタッフを配置しない企業は39%で非大企業では53%である。配置企業でも、専任スタッフを配置する企業は少なく、配置されていても兼務者である。専任スタッフなしでは、監査業務が形式的・表面的になると考えられる。
- 監査役と会計監査人:監査役と会計監査人との情報交換が十分とする意見は32%で、両者の連携が弱いと考えられる企業が3分の2を占める。
- 内部監査:内部監査部門の機能が発揮されている意見が大企業では61%であるのに対し、非大企業では27%に過ぎない。
- 課題:三様監査が十分に機能していないという意見が34%もある。三様監査による効率的・効果的監査を行うために、力量を高め、情報交換を密にして連携を高めることが大きな課題である。
3-3 監査役の抱える問題と改善策
抱える問題点:「監査役としての任務遂行が困難である」、「法的権限が発揮できない」という意見も多く、その原因として、社長や執行部門との関係(36%)と、自己資質・勇気不足・自覚不足(32%)とする意見が拮抗している。
- 監査役任務遂行の為の改善策:「監査役地位の実質的独立を担保する体制の整備」に関する意見が最も多く(66%)、具体的には、「監査役の外部組織からの派遣」(16%)、「監査役資格制度」(15%)、「監査役選任制度の法的整備」(13%)など、監査役の社長からの実質的独立を担保する制度の導入を求める意見が多かった。
4.提 言
「経営トップが絡む粉飾決算の防止」を実現するため次のことを提言したい。
4-1 リスクシナリオ手法(リスクアプローチ手法)の導入
- 手法として @ まずリスクを洗い出す。 A そのリスクの軽重を測り評価する。 B リスク毎に相応する統制を行う。 C 重大リスクについては不存在を実証する。
- 手続き確認手法をベースにしている監査手法にリスクシナリオ手法を導入することにより、会計監査人および内部監査部門とのリスク認識が共通し、三様監査の実効性が向上する。
4-2 監査役による株主総会での監査活動の説明義務の付与
- 監査役の活動状況の説明を義務付けることにより@ステイクホルダーの監査役への期待と評価が向上するA監査役の社会的評価が大幅に向上する。
- 現行法制下においても可能であるが、法的義務とするには会社法改正が必要。
4-3 監査役資格制度(国家資格等)の創設
- 会計監査人は国家資格である公認会計士資格が必要であり、内部監査担当においても国際資格である公認内部監査人(CIA)制度がある。
- 国家資格の監査役とすることで、使命感あふれる監査役の能力が大幅に向上し、それを証明する強力な制度であるので @ 監査役の監査能力への信頼性が向上する A 三様監査における監査役への信頼・期待が高まる B 監査役の社会的認知度が向上する。
4-4 独立監査役協会からの監査役派遣制度の創設・・・監査役の独立性確保
- 独立監査役協会は、企業を会員とし監査役報酬は企業が負担し協会に納付し、派遣監査役には協会が給与を支給、監査役人事権は監査役会(監査役会がない場合は現任監査役)が保持し社長の監査役人事権を排する。
- 監査役の独立性が確立することにより、@使命感溢れる監査役が真の独立性のもと自信を持って業務に邁進できる。A経営トップに直言できる信頼される監査役となる。
質疑応答の概要
研究発表の後、質疑応答がありました。その主なものは、監査役の独立性を担保するための監査役の国家資格制度の提言に賛同する意見と、反対に「どのような試験を誰が行うのか?公認会計士とどのような違いの資格であるのか?資格を持てば万能か?国の制度に依存するのは時代に逆行しているなど、実効性を疑問視する意見があり、熱い研究発表会でありました。