2012/02/01(No118)
藤田 卓
2011年は、「名門ドジャースが破産法を申請した年」として多くのMLB(大リーグ)ファンの記憶に残ることになりそうだ。
ドジャースは、MLB誕生後間もなく設立された130年を誇る老舗であり、その間多くの名選手を輩出、また第2次大戦後、いちはやく黒人選手ジャッキー・ロビンソンを採用、アメリカ社会における黒人差別撤廃運動の火付け役となった功績も見逃せない。
MLBの球団経営は、1976年FA(フリー・エージェント)制導入以降選手の年俸高騰による球団間の貧富の格差拡大、また投資家集団の進出が顕著となるなど球団経営をマネーの対象とする傾向が強くなっている。ドジャース現オーナーも東部出身の不動産投資家であり、今回のような事件が起こる素地はできあがっていたといえる。日本の民事再生法にあたるチャプターイレブンを申請したことで、ファンの1人としてその後の事態の推移を注目していたが、11月初旬MLB機構(日本のコミッショナー機構に相当する)とオーナーの間で球団売却の合意ができたとの報が入ってきた。自主再建を目指していたオーナーの意向をしりぞけ、球団売却にもっていったMLB機構の力は流石だなと思った。
この統治能力のすごさは、機構への権限の集中が半端なものではないという経営構造にあるようだ。基本的には、機構と各球団は主従の関係で結ばれていると云えなくもない‥‥各球団は、ベースボール発展のためにベストを尽くす(act in the best interest of baseball)ことを誓約し、引き換えに特定の地域でのフランチャイズ(独占的興行権)を与えられる、いわば幕府が大名に忠誠を誓わせる見返りに領地を与えるという構図である。
近年ドジャースの経営難はささやかれてきたが、共同オーナーであるオーナー夫妻の離婚問題というお家騒動も加わって、幕府は忠誠心に疑いありとしてこの4月にドジャースを管理下におき、実質的に経営権をはく奪、領地召し上げを断行していた。ドジャースの自主再建を目指していたオーナーは、幕府と全面対決姿勢を打ち出し、破産法申請となったというのがこれまでの経緯だが、球団売却合意で、早急に1件落着と相成ってほしいものだ。
報道によれば、名乗りを上げている球団買い手の中にピーター・オマリーが含まれているそうだ。オマリー家は戦後間もない頃から半世紀近くドジャースのオーナーであったいわば古き良き時代のベースボールを代表する名門である。ベースボールの国際化にも早くから取り組み、自費で韓国、中国などに球場を建設、寄贈実績があり、また日本の球団の海外キャンプのはしりとなった巨人軍のフロリダ・ベロビーチのキャンプ実現に努力するなど功績は数知れない。
ベースボールをこよなく愛するオマリー家の復活を願ってやまない昨今である。■
ふじたたかし ディレクトフォース会員 元丸紅