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2012/01/16(No117)

「トルコで驚いたこと」

山之内 憲夫

筆者11月トルコで行われた日本トルコ中央アジア友好協会秋季留学生セミナーで、中央アジアの学生とじっくり話す機会があり、驚いたことが2つあった。

1つは、トルクメニスタンから来ている女子学生の「日本は、広島・長崎に原爆を落とされ、多くの人を殺されたのに何故米国を憎まないのか?」という質問。一瞬ぎょっとしたが、さらに「米国は、9.11の後、アルカイダを米国の敵として徹底的な報復を行った。何故日本は報復を考えないのだ」と言われたので、「多様な価値観を持つ多数民族国家では国民を結集するのに明確な敵を作ることが必要だが、単一民族の日本では敵を明確にすることが少ない。また、仏教の影響だと思うが、日本人には、過去は変えられないのだからこれを受入れ、そこから何をするのが良いかを考えようという姿勢があり、それが、米国への報復でなく核兵器反対運動に向かわせたのだと思う。日本には、罪を恨んで人を恨まずという言葉がある」と格好良く答えておいたが、日本人の淡白さとあいまいさに若干の戸惑いを感じると共に、旧ソ連が中央アジアに残した傷跡の深さを垣間見た気がした。

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学生と話す筆者

2つ目は、福島原発事故に関すること。福島原発事故をテーマにしたディベートクラスの "事実を述べる" セッションで、「福島原発が地震と津波で爆発事故を起こし多くの死傷者と被爆者を出した。広い地域が放射能汚染されている」という発表があったが、これに反論する学生はおらず、これが彼らの共通した事実認識のようであった。「福島原発事故は、核反応停止後の放射熱冷却が出来ず水素爆発を起こしたもので、核爆発事故ではない。事故による死者はゼロ、被爆者も復旧作業に従事していた数人だけ。放射能汚染地域も極めて限定されている」と伝え、学生達の認識を改めてもらったが、地震・津波・原発事故・津波による多数の死者などの情報が断片的に伝わった結果、チェルノブイリ事故と重なって、多くの死傷者が出た核爆発事故との認識を生んだものと思われる。これでは世界的な風評被害が起こるのも無理ないし、事実を正しく伝える徹底した努力が必要だと痛感した。

やまのうちのりお ディレクトフォース会員
元日本航空機製造、三菱重工、民間航空技術サービス、現オライオンネットワーク