高齢者が医療や介護に頼らないで、アクティブに日々、生活するというのは、理想的な高齢社会の生活スタイルだ。誰もが待望するところだろう。しかしアクティブ・シニアだ、と自負している人でも、年齢的に、単独で生活を続けるのはなかなかむずかしい。家族を含めて誰かの世話になるか、友人との交流に頼らざるを得ないからだ。その点で、人的交流の場づくりをしっかりと進めることが、新たな高齢社会づくりのカギとなるのは間違いない。
日本シニアライフが導入、ゲームでコミュニケーション力つける
その人的交流の場づくりに関して、高齢者向けデイサービスでの「ラスベガス方式」という面白いネーミングの取り組みが参考になる。全国64拠点で介護サービスを展開する日本シニアライフ株式会社(本社東京、森薫社長)が導入して、一時、話題になった。
日本シニアライフによると、デイサービス利用の高齢者が、コミュニケーション力をつけるだけでなく、脳機能の活性化につなげられるようにするためには、さまざまなゲームを通して、互いに交流したらいいのでないかと考え、ゲームスタイルのコミュニケーション・システムを取り入れることにした。ネーミングに関しては、ゲームや娯楽で有名な米国のラスベガス市の名前を活用すれば、認知度も高まるのでないか、と考えたという。
トランプカードが中心、競い合うと脳の活性化につなげる効果
この「ラスベガス方式」は、要は、利用者が送迎バスでデイサービスに行くと、まず体重や血圧測定など健康チェックを行い、スポーツトレーナーによるストレッチ体操で身体をほぐす。このあと、リラクゼーションを経て、いくつかの技能訓練プログラムを行い、午前11時過ぎから1時間ほど、みんなで最初のテーブルゲームを行う。昼食後、機能訓練を交えて、ゲームなどのレクリエーション・プログラムを2回程度、午後4時45分の帰宅時間までの時間を使って、互いにグループ交流しながら楽しむ、というもの。
ゲームは、トランプカードのゲームを中心に、簡単ルールのマージャンなどさまざま。ルールを憶え、足し算や掛け算など四則計算を行って競い合う。ゲームに関心を持ってもらうため、その場でしか流通しない「ローカル通貨」をつくり、勝ち負けのたびに「通貨」をやりとりする。ゲームが終わったあとで、「あの時が勝負のポイントだった」と自慢げに話す。それが場の雰囲気を盛り上げ、コミュニケーションにつながっていく、という。
ゲームを通じてふれあいや談笑、孤独な高齢者も元気に
大事なのは、高齢者の人たちが、ゲームの楽しさを通じて、自分と同世代の仲間の人たちとのふれあいや談笑、会話に弾みが出て、次第に、高齢者に新たな元気をもたらす。そして介護サービスの場でのゲームによって、コミュニケーション力を培っていく。そればかりでない。高齢者の人たちにとっては、ゲームに対する面白さのみならず、いい意味で「次のゲームはどう攻めようか」といった向学心も高まってくる。それらに弾みがつけば、活動や行動に積極性が生まれてくるかもしれない。
こうしてみると、高齢社会、さらに、その先にある超高齢社会という、言ってみれば人口の高齢化で新たな重圧のかかる社会が今後、本格化する中で、コミュニケーションの輪が広がる仕組みづくりを考えることは、とても重要なことだ、と言える。
高齢者対策だけでなく、次代担う若者との世代間交流対策が必要
しかし、ここで、欠かすことが出来ない重要な視点がある。これからの日本の高齢社会に対応した社会システムづくりを考える場合、高齢者対策だけを考えるのではなく、次代の日本を担う若者世代向けの対策をしっかりと位置付ける必要がある、ということだ。
何を申し上げたいか、おわかりいただけると思う。日本の高齢社会対応と言う場合、高齢者世代への問題対応は重要なテーマ。しかし、もっと重要なのは、高齢者対応に振り回されかねない多くの日本の若者世代への対応だ。さらに付け加えるならば、日本での豊かな生活に活路を求めて日本を訪れ、定住している外国人などのことだ。これらの人たちは、日本の今後を担う重要な人たちで、彼ら若者世代と高齢者世代の世代間交流のためのコミュニケーション対策を進めることが、さらに重要だ。
高齢化が進む団地で周辺大学の大学生が団地活性化に貢献
高齢者と若い世代との世代間交流事例として、興味深いのは、神奈川県相模原市にある県住宅供給公社が運営する相武台団地で、周辺の相模女子大学の大学生が、団地活性サポーターという形でさまざまなプロジェクトにかかわっていることだ。この団地は賃貸と分譲を含め2528戸の住宅があるが、住民の高齢化率が49%に及び、コミュニティーや地域の活力の低下にどう歯止めをかけるかが大きな課題になっていた。
この団地に入居して生活する6人の大相模女子大学の大学生を含め同大学の団地活性サポーターが団地自治会と連携協定を結び、団地商店街の一部に住民有志でつくった「ひよここども食堂」での調理サポート役を担うほか、高齢者の健康チェックなどを行っている。
この動きに刺激を受けたのか、同じく団地周辺の東京農業大学の大学生が団地商店街で多世代交流拠点「ユソーレ相武台」をつくり、相模女子大学の大学生と一緒に高齢者とのワークショップも展開している。相武台団地の高齢者の人たちの間では「若い人たちと接点を持てて楽しい気分になれる」と好評だという。
相武台団地の話は1つの事例で、高齢者世代と若者世代が同居する、首都圏などのこれら団地で、世代間交流という形で、さまざまな取り組みが広がりを持つことを強く期待したい。
大事なことは、世代間交流によって、高齢者が若者世代の持つエネルギーの吸収にとどまらず、若者たちが持つさまざまな考え方に刺激を受け、みんなで新たな地域社会づくりを進めようという発想を持つようになれば、間違いなくそれぞれの地域社会がアクティブ、バイタルになっていく可能性が高まる、ということだ。
世代間交流によって、いい意味での「化学反応」が起きれば、日本の高齢社会も、課題山積で何も問題解決できない重苦しい社会、ということから一転、高齢者と若者世代が面白い形で共生が可能な社会に変わっていくことが可能になる。そうすれば、日本の高齢社会の新社会システムは、われわれにもヒントになると、人口の高齢化という課題に直面する中国や新興アジアの国々から、日本は評価の対象になる可能性がある。