2024年3月7日
- 開催日
- 2024年2月26日(月)14:30~16:40
- 場所
- スタジオ751 + Zoom
- 演題
- 福島原発事故と原子力の将来
- 講演
- 田中 俊一 氏 初代原子力規制委員長
- 参加者
- 37名
趣旨
今回は以前一度DF講演交流会でお話を頂いた、元原子力規制委員会初代委員長の田中俊一さんをお招きし、原子力の諸問題につき講演交流会ではできなかった討議を行った。講演交流会での資料や新たに用意されたレジュメなどを事前にメンバー各位に配布し見ていただいて、講演は30分のキーノートに止めて大部分を討議とした。
DF会議室には20名以上とWebでも20名位の参加者があり、活発な議論が行われた。
原子力について初めて認識する内容もあり、有意義な会となった。
資料
討議が目的だったため、この議事録に概要を記載します。
質疑(抜粋)
- Q
- 新規(新たに出された原子力政策)で開発する炉は止めるべきなのか、2050年までの開発はどうなるのか
- A
- 半世紀の間に、世界で多額の投資をして実用化できない結果がでているものであり、同じコンセプトで開発を続けても、単なる失敗の繰り返しになる。無駄である。
- Q
- 核融合もダメか
- A
- 米国をはじめ世界が止め、日本とフランスだけが残った 日本も止めるべきであると思う。物理的にも工学的にも核融合でエネルギーを取り出すのは不可能であり、科学的な判断が必要である。核融合の人は放射線物理を知らない。ITERはできない
- Q
- 多くの人が信じているのはなぜか
- A
- 夢ではないか クリーンエネルギーを期待というが、クリーンエネルギーというのは全くの嘘であり、核融合炉は高レベルの放射性物質の大きな塊となる。
- Q
- 意思決定に対する責任が不健全ではないか 日本だけの問題か
- A
- 日本はひどい。ITER-EDAが終了し、ITERに進む段階で、米国や英国等の先進国は枠組みから脱退し、止めるという判断もした
- Q
- 田中さんは行政も関わっているが、どうして政策が曲がったのか
- A
- もとは原研での研究者であったが、原子力委員会副委員長や原子力規制委員会委員長など様々なことで、行政ともかかわってきた。学会の会長までしたが、自分は学会では少数意見で、日本の行政と同じで原子力界の体質は一度決めると変わらない。原子力関係の学者も行政の云うがままである。一般論として、政府・行政に関わっている専門家の意見は一概に信用できない
- Q
- 日本のエネルギー政策は水力から始まって、火力、原子力ときた 次への変換が必要だが、原子力で止まってしまった
- A
- その後、温暖化問題があり再生エネルギーが伸びてきた。再生エネルギーが伸びることは賛成だが、まだコストも高いし、技術も完全なものではない。まだまだ、原子力エネルギーに代われるだけの技術には達していない。 ただし、新規の原発となると、100万kWの原発で1兆円規模の資金がいる、電力会社からみると資金回収の長期見通しが必要であるが、電力自由化の中では難しいこともあり、事業者として、容易に投資できるものではない 電力の自由化は原子力の命取りになる可能性がある。
- Q
- 原子力が必要なことには賛成 しかし再稼働でもめている 廃棄物処理をどうするのか サイトは満杯と聞くが
- A
- フィンランドは地下500m以深に埋めている。各国とも深地層に処分する考えは共通であるが、立地がなかなか進まない。日本も処分地を探っているが見つかる見通しはなく、一方、使用済み燃料の保管施設も満杯に近づいている。伊方3号機の再稼働に際して、乾式貯蔵容器に保管すれば200年程度は安全に保管できることから、私の方から四電の使用済み燃料は、廃炉にされる1号機の敷地サイトに保管することで当時の愛媛県知事に話をし、了解された 九電も玄海1号機のサイト内に保管している。 乾式容器に保管すれば、100~200年の余裕が出る。最終処分の立地問題は、その間にどうするか考えればよい。ただし、原子力が国民にとって重要という共通認識が立地の可否を左右する。その上で処理が必要⇒受け入れ場所が必要ということになる 家庭のごみ処理と同じこと もっと根本的なところから考えないと原子力の廃棄物問題は解決できない
- Q
- 愛媛県は偉かったな
- A
- 知事は民間出身だった、役人ではなく、現実的な判断をしてくれた
- Q
- 日本は責任の所在があいまいだ、筋の悪い研究でも止めると責任を問われるので、続けている 今回の問題は東電の責任が大きいと思うが、政治問題→原発が悪い ということで東電は逃げている
- A
- 当時の政権は反原子力、原子力が悪いという方が良かったので、東電だけの責任より国の責任とする方が都合が良かったのではないか 福島第2発電所(2F)の4つの原発は残すべきで、稼働させた利益【3~4千億円】の一部を地元の復興資金として継続的に提供すべきだと前社長には申し上げたが、現社長に代わって廃炉になってしまった。経営者としての気概も見識もない 今後柏崎刈羽もどうなるか判らない
- Q
- 日本全体での責任感がない
- Q
- 嘆いていても仕方ないがこのままでは日本の将来がない 国民に原子力が必要だと意識を持たせるにはどうすればよいのか
- A
- 政策を根本から見直すことである。 実現できない研究開発などの推進は、政策の最悪の見直しである。日本のエネルギーがどうなるのかしっかり示すこと、温暖化問題には原発利用が欠かせないことなどを含めて、しっかり示すことである。 国民は今のままで何とかなるのではないかと思い、危機感がない。カーボンゼロなどと浮かれているマスコミや政府に振り回されている
- Q
- 当時毎日新聞の記者として報道していた 東電に聞くと原発は安全ですという神話から始まった 国会の事故調の教訓はどのように生かされているのか 東電は絶対安全と言っていた、東電の責任は大きい エネ庁にも上から目線で対していた 再稼働への道筋は不透明 安全対策ができているのか
- A
- 規制だけでは安全は保てない 現場がしっかりしないと安全はない 経営陣の問題と現場の問題であり、それぞれ資質が問題である。今の社長は現場への発信がなく、政府の言いなりではないかと思う。
- Q
- 原子力そのものが問題という意識がある 原発にリスクがあるということは認めるべきで、その上でどう対策するのかという政策であるべき
- Q
- 100%安全を原発に求めている
- A
- 原発には、潜在的リスクは大きい。だから、安全規制は重要である。今回の1F事故では、放射線による被ばくで人は死んでいないし、病人も出ていない。しかし、必要のない避難によって多くの犠牲者が出ている 原子力関係者による絶対安全の神話は破綻したが、一方、100%安全な技術はこの世に存在しないので、100%安全を求めると安全神話が繰り返される
- Q
- 50%の人は原発が必要と思っている
- Q
- 規制委員会が厳しいガイドラインを出したことで、より安全になったと思うか
- A
- 重大事故に対する安全性は飛躍的に向上させる対策を要求している
- Q
- 原子力がダメだという人に安全性が増したと言えるのか
- Q
- マスコミがしっかり伝えれば世論は変わるはずだが
- Q
- 廃炉と40年以上使う炉との差は何か
- A
- 新しい安全基準に対応するためには、大きな投資(1000億円以上)が必要であり、その投資に見合わないと判断されたところは廃炉になっている。技術以前の経済性で個別に対応しており、規制委員会は廃炉の判断はしない。電力会社自らの判断である
- Q
- 小さな電力会社が止めていく 通信の世界では自由化後また再統合の動きになっている 自由化して広がったが、セキュリティや大きな投資リスクから揺り戻しが起こっている
- A
- 小さな太陽光発電の会社が苦しんでいる 合併統合の方向もでている。例えば、小さな会社では風力発電の風車が倒れても処理する力がない
- Q
- 今は半導体に大きな政府支援がある 再エネへの支援はどうなるのか
- A
- FIT制度は、徐々に縮小している。自由化には長期的な視点が必要である。特にエネルギーは国の根幹を支える基幹技術であり、大切である。
- Q
- 燃料サイクル政策からの脱皮と言われたが、どうするのか
- A
- 現実を見据えた政策が必要 ガラス固化処理は日本だけがやろうとしている。各国使用済み燃料は直接処分である。再処理をしなければ、ガラス固化はできない。再処理の目的はプルトニウムを取り出すことであるが、仮にプルトニウムを取り出しても現状では使い道がない。もっと現実的に考える必要がある。 燃料リサイクルとは20基以上の高速増殖炉、高速炉燃料用の再処理工場などがなければ成り立たない。現実には、全くの夢物語である。世界でも燃料サイクルを志向している国はない。できないところに莫大な資金を投入するのは止めて、資金は必要なところに使うべき 軽水炉リサイクルはまやかしである。六ケ所の再処理工場が仮に稼働しても出てきたプルトニウムに使い道がない。しかし、無駄だからやめろというのは少数意見である。経済的に全く無駄であるが、電力会社は止めろとは言えない
- Q
- 教育現場では核融合に惹かれて学びたいという学生もいる
- A
- 学生にとっては夢 今や原子力は夢ではない 核融合物理の研究は夢でも、核融合炉はエネルギー装置であり、極めてリアリスティックな分野である。
- Q
- CN戦略では20%が原子力というが、今のままでは数% 原発が20基以上いるのにどうなるのか
- A
- とりあえず動かせる可能性のある既存の原発を60年動かせば、しばらくは25基程度は動く。新規立地あてしなくは難しいし、廃炉の跡に建てることもできないので、今のままでは、いずれ縮小してしまう
- Q
- 核融合は夢、ダーティーな技術と初めて知った
- A
- 核融合はまだ臨界実験の段階まで達していない。ITERは多額の投資をして20年も経つのにまだ臨界にもならない。発電までには遠い、不可能である
- Q
- 日本人の意識が変わらないと、いつまでも原子力は怖いと思われている もっと小学生から放射線などの基礎知識を教えるべきではないのか
- A
- 放射能のない食品はこの世にない。人の体内にもある 医療用の放射線は受け入れられている。コロナの時の一回のCTで2~3mシーベルト浴びている。普段でも日本人は平均5mシーベルト程度の被ばくをしている。一方、一部の者は1mシーベルトで癌になると言っている 子供には正しい教育が必要
- Q
- 原子力関係者で教育広報をする人はいないのか
- Q
- 資金を出して広報すべき
- Q
- 事故調の報告の提言は止まっているのではないか 責任として結末まで見るべき
- A
- 規制委員会は事故調の提言に従っていると思う。その意味で提言はフォローされているのではないか
- Q
- 再生エネルギーに対して、すべての技術を使って対応しているのか 今の状況では感じられないが
- A
- COPの議論で、中国は温暖化ガスの削減はするといいつつ、2050年まで石炭を使うと言っており、各国が各様に対応するのは止められない。発展途上国を含めてCO2の増加を止めることはできないだろう。
- Q
- 小型原発が良いと聞いていたが、違ったのか
- A
- 米国と背景が違う アラスカのようなグリッドから外れ、使用量も少ないところでは小型炉も有効である。しかし、安全性が小型化だけで担保されるものではない。日本の小型炉も、CO2削減という視点で、グリッドのない発展途上国向けの支援策として安全性を高めた炉を開発するのであれば納得できるが、今のように大型炉に代わるものと考えるのは間違いである。
追補
別に事前に頂いた質問につき、個別に回答を頂いているので、その資料を添付します。
以上(浅野 応孝)