第19クール企業ガバナンス部会

第8回月例セミナー講演概要

2024年5月22日
パートナー弁護士 塚本 英巨 氏
1.日時
2024年4月17日(火)14:00~16:00
2.場所
スタジオ751+Zoomのハイブリッド方式
3.テーマ
社外取締役の活用とその評価
4.講師
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業
パートナー弁護士塚本 英巨 氏
5.聴講者
44名(後日視聴した者を含む)名

6. 講演概要:

  1. 経済産業省が「社外取の在り方に関する実務指針」(社外取ガイドライン)や本年1月の「社外取締役のことはじめ」において示したとおり、社外取締役(以下社外取)の最も重要な役割は「経営の監督」であり、社長・CEOに対する評価とそれに基づく指名・再任や報酬の決定であり、必要な場合には、社長・CEOの交代を主導することなどが含まれる。
    より具体的には、中期経営計画等の経営目標・KPIなどの業績評価、経営陣の立案能力や方向性の判断、実行状況、スピード感の評価、社長・CEOの後継者計画、解任基準の策定、報酬制度の設計など。
    社外取が役割を発揮するためには取締役会のアジェンダ設定が重要。それには経営と監督を分離させ、取締役会の決議事項のスリム化、付議基準の見直しが必要。その上で、会社の方向性等の監督のために必要な事項についての取締役会における審議を充実化することがさらに重要。
  2. 取締役会議長と社長・CEOの分離
    取締役会が業務執行者に対する監督機能を重視する場合、独立社外取が議長となる傾向があるが、日本ではまだ少ない。プライム上場企業の中で社外取が取締役会議長に就いている割合は3.6%でしかない。
  3. 任意の指名委員会・報酬委員会を巡る論点では、
    任意の指名委員会を置くプライム上場企業は1,527社、83.3%、任意の報酬委員会を置くプライム上場企業は1,561社、85.2%と増加しつつある。任意の委員会の委員の過半数が社外取であるプライム上場企業も90%超となってきた。委員会の委員長が社外取であるプライム上場企業も指名、報酬委員会とも65%前後と増えてきた。
    委員会は形式面における独立性は確保されつつあるが、今後は監督のための十分な議論がなされているかの実質面が重要となる。
  4. 社外取への情報提供の在り方
    Bad News が社外取を含む取締役にタイムリーに提供される仕組みになっているか、かつ、当該 Bad News に対し、社外取が適切に対応しているかが重要。
    入手した Bad News に対し、執行側に忖度しない社外取としての振る舞いが重要。
    執行側は、社外取の情報提供リクエストに真摯に対応するとともに、社外取は真に必要な情報か見極めながら情報をリクエストするというバランスが重要。
    取締役会は、業務執行取締役が社外取の「ご意見を伺う場」「対峙する場」ではない。社外取と業務執行取締役が取締役会の対等な一員として、より良い経営計画の策定、経営課題に対するより良い解決策の検討のため、互いに「協働する」という姿勢が重要。
    社外取は、中長期的かつ大局的な視点から経営の監督にあたり、マイクロ・マネジメントは自重する。そのためにも取締役会の決議事項のスリム化が重要。
  5. 社外取に対する評価
    大前提として、個々の社外取に期待する役割・機能が明確にされており、それが関係者に十分理解されている必要がある。
    評価の方法は①自己評価②社外取同士の相互評価③株主総会におけるステークホルダーによる評価などがある。
    相互評価はセンシティブな性質のもので、誰がインタビュアーになるかなど課題。社外取である指名委員会の委員長がインタビューを行うことも一案。

以上CG上重要なマターである社外取の活用と評価について、最新の動向を歯切れよく、明快なご説明を頂き、現在社内取、社外取、監査役の立場にある方、これからそれらを目指す方、その他の方にも大変有意義な講演であった。

6. Q&A:

Q1
監査役会設置会社の社外取であるが、情報収集のため最近監査役に同行して往査したが、社外監査役(弁護士)から監査役(会)の独立性を損ねるものではないかと指摘された。どう考えるべきか?
A1
社外取も監査役による監査の対象であるので、指摘は一理あるが、社外取は、業務執行を行っているわけではないので、監査役(会)の独立性を損ねる程度は非常に小さいのではないか。
Q2
実務的で面白い話だったが、会社法上、社内取、社外取に関係なく取締役は取締役会においてあるじ(主)として第一義的責任を負うものであり、株主代表訴訟などのリスクに常に晒される。社外取の業務執行の監督などは一部的なことであり違和感を覚える。日本の社外取は弁護士、元裁判官など経営に全くの素人が入っており構造的に問題があり、リスクが大きすぎると考える。取締役会は(会社において)主であって、弁護士、会計士などコンサルタント的な人は入れるべきではない。弁護士、会計士は専門的なコンサルタントとしてアドバイスすれば良い。
A2
経営経験あり、経営のわかる人が社外取にならないと経営に関する議論は充実化しない。他方で、社外取のスキルとして、攻めだけでなく守りを理解している人も入れるべきであり、その意味で弁護士、会計士も入れて多様な議論ができる取締役会が良いのではないか。内部統制上、問題提起をする人がいて良いと考える。
Q3
社内取、社外取とも経営のプロであるべきだ。社外取が経営会議のような重要会議で傍聴するだけではダメだ。きちんと参加し発言すべきだ。業務執行と監督をきちっと別けるアメリカ型もいいが、別け方には難しさもあり、日本独自のやり方もあるべきだ。
A3
確かにあまりきっちり別けると、会社の情報が上がらなくなるリスクや変な決定をしてしまう恐れもある。社外取からもそういう声が聞かれる。CGコードでアメリカ型が求められているので今回ご紹介した次第であるが、各社各様で良いのではないか。
Q4
株主からすると、社外取の監督の実体がよくわからないし、その責任の所在も明示的でない。例えば、不祥事を起こしたCEOの任命や、業績が芳しくないのに、CEOに高い報酬が支払われたケースでは、指名や報酬の委員会が主導した社外取の責任が曖昧なことが多い。取締役会が業務執行機関から監督機関にシフトし、経営と監督の分離を図るという方向性は理解できるが、監督自体の責任はどう整理するのだろうか。
A4
会社法改正により、社外取の役割等の開示が求められているが、実態は確かに不明な点もある。これを明らかにする仕組みづくりもなかなか難しいが、機関投資家などの株主が社外取と対話することも有益だ。
Q5
取締役会の機関設計には監査役会設置型(従来型)と監査等委員会設置型(委員会型)があるが、取締役会決議事項は異なっている。従来型会社が基本的な事項だけを決議するだけで、その他重要事項を決議しなければ責任を果たしていないことになり会社法362条違反にならないか?
A5
今回は機関設計の違いを捨象したが、両型はもともとの思想の異なるものであり、分けて考えるべきである。従来型が決議する重要事項の範囲については、解釈の違いが色々あるが、両型は条文の建付けが180度違うので、委員会型と同じ程度に委任することができるというのは無理のある解釈ではないかと思う。委員会型に移行すればそのような解釈問題もなくなる。
以上(越後屋 秀博