環境部会トピックス

第52回環境セミナー開催
「最近の異常気象を振り返る」

撮影:保坂 洋
2024年4月1日
気象庁大気海洋部気象情報課 伊東 明 予報官
日時
2024年2月14日(水)15:00~17:00
講師
気象庁大気海洋部気象情報課 伊藤 明 予報官
会場
DFスタジオ751 + Zoom
参加人数
65名

講演要旨:

最近の異常気象を振り返る~地球温暖化の進行に備えるために~

1. 異常気象とは

過去に経験した事象から大きく外れた現象のことを言い、気象庁ではある場所(地域)、ある時期(週、月、季節等)において30年に1回以下の頻度で発生する現象のことを異常気象としている。

2. 気温

2023年はグテーレス国連事務総長の「global boiling」という言葉を引用するまでもなく、全世界的に異常高温の記録を更新した年であった。日本においても2019~2022年の年平均気温は平年値(過去30年の平均値)との乖離が+0.60~0.65℃で推移していたが、2023年は+1.29℃の乖離と突出した値を示し1898年の統計開始以降最も高い値であった。

季節別にみても春、夏、秋3季連続で歴代1位を記録し、とりわけ夏季(7月後半~8月)においては北日本、東日本では記録的な高温、少雨、多照が顕著であった。これは下層の太平洋高気圧の張り出しが顕著に強まり、持続的な下降気流や晴天による強い日射が地上気温の上昇をもたらしたこと、加えて上層の亜熱帯ジェット気流が明瞭に北編し、暖気を伴った背の高い高気圧に覆われたことが原因と考えられる。

これらの現象はフィリピン付近の積雲対流活動が活発になると、フィリピン付近で反時計回りの循環が強まって、東南アジアからフィリピン付近に見られる大気下層の低圧部(モンスーントラフ)が平年よりも強まることによって起こると考えられている。

3. 降水量

梅雨期には降水量の増加がみられるが、近年は梅雨前線の南に出来る線状降水帯の活発化によってより顕著な豪雨が起きており、昨年7月には九州北部や秋田地方で記録的な雨量を記録した。

また8月上旬には台風6号7号が沖縄・九州付近で迷走、停滞し、長期間にわたり大雨をもたらすなど交通への影響も甚大であった。

大雨は空気中の水蒸気が局所的に収束・集中し、背の高い積乱雲を形成することで起きるが、地球温暖化による気温の上昇で水蒸気の量が増えることで、より大量の雨をもたらすこととなっている。

4. 地球温暖化

地球は太陽からの熱を一部反射して大気外に跳ね返しているが、工業化以降の温室効果ガスの影響で地球に蓋をしてしまい、反射熱をより貯め込む状況になっており過去に例を見ない気温上昇を招いている。IPCCの報告によれば温室効果ガスの多くは二酸化炭素とメタンであるが、75%超を占める二酸化炭素は工業化前大気中の濃度は280ppmであったものが、現在は410ppmを超える水準に増加している。

またこれに加え近年はコンクリートやアスファルトによる都市化の影響も無視できず、都市化の影響を受けない地域と、東京、大阪等の都市部では気温上昇において2倍の差が出ている(年平均気温の上昇は1.6度、3.3度)。

大雨も温暖化の影響で増えており、日降水量200㎜以上の日数は100年間で1.6倍に増加している一方降水日数は逆に減っており、雨がより短い期間に狭い領域で短い時間に多く集中して降ると言う変化が進んでいる。

5. 将来予測

平均気温の上昇は蓄積CO2排出量とほぼ比例しており、今後CO2の排出量が劇的に減少する対策が取られたとしても、少なくとも今世紀半ばまでは今までの排出量の蓄積から気温は上昇し続ける予想となっている。今後も追加的なCO2削減策を講じない場合、日本の平均気温は2100年には4℃程度上昇すると言われている。4℃の上昇とは昨年の異常な暑さでも1.3℃の上昇であったことから考えても、想像を絶する温度上昇と考えられる。

年降水量は大きく変化しないものの、日降水量200mm以上の大雨や1時間50㎜以上の集中豪雨日数は2倍以上になる一方、年間の無降水日は数8日ほど増加すると予想されている。

雪についても温暖化で降雪量は減少するものの、水蒸気量の増加により10年に一度というような災害級の大雪が起こりうる可能性が指摘されている。

世界、日本の気候は大きく変化してきており、温暖化の人間への影響は疑う余地がない段階に来ているが、現時点での温室効果ガス削減の取り組みでは結果として2.0℃より低く抑えることは困難と指摘されている。

これまでに経験したことのない極端な気象現象への対応が強く求められる。

第52回環境セミナー開催

質疑応答

Q
水蒸気は温室効果ガスなので、大気中の水蒸気が増えれば温室効果が指数関数的に増加するのではないか。
A
水蒸気は気温が上昇すれば増えるので温室効果は強まる。一方水蒸気が増えれば雲になり雨となって落下することもあるので、指数関数的と言うよりは線形的に増えると考えられる。水蒸気は気温の上昇で増え、他のCO2のように人間が制御できるものではないので、他の制御可能な温室効果ガスの削減が重要。
Q
水蒸気が雲にならず大気中にH2O分子として増えているとすれば、ある段階を超えれば気温が指数関数的に上昇し人類はお終いということになるのではないか。
A
地球温暖化の予測シミュレーションには温度上昇による水蒸気量の増加も加味されている。それを加味したうえでのIPCCの予測結果になっている。
Q
過去に氷河期をもたらしたメカニズムが今後復活することが期待できないか。
A
200万年前まで遡ればそれ以降地球は氷期と間氷期を繰り返しており、そのメカニズムは地球の軌道の変化や太陽の放射量の変動によって引き起こされている。このかなり長い時間スケールに対して、現在の温暖化は19世紀後半以降の百数十年の間の事象で、時間スケールがかなり違うということに留意すべき。
近い将来氷期に向かうかという趣旨だと思うが、氷期のCO2の量は180ppmと推定されているが、工業化前のCO2が280ppm、今現在が400ppmを超えていると言われておりかなり蓄積が進んでいる。地球の軌道の変化や太陽放射量の変化は数万年単位の変化であり、現在のCO2の蓄積はそれをはるかに超えるレベルである。別のメカニズムにより氷期の到来については分からない。
Q
気象情報のビジネス活用について。
A
気象情報のビジネス活用は民間の気象情報会社等と比べると、気象庁としては進んでいない反省はあるが、いろいろな産業分野への利活用は10年ほど取り組んでいる。例として清涼飲料、アパレル産業、家電流通分野等に週間予報、月間予報、季節予報が活用いただけるか検討してきた。製造計画に役立てるには精度の面で難しいが、小売り、流通面では有効活用していただけるようになってきている。
Q
上昇率1.29と言う数字ではピンと来ない。具体的な異常現象がどれくらいの頻度で起きているのかで訴えた方が良いのではないか。
A
昨年は過去例のない暑い年であったが、猛暑日数や熱帯夜の数で表すと昨年を上回る年もあり、一概に限られた異常現象の数字だけでは表しきれない。一番端的な物差しは平均気温。それ以外の物差しと合わせて表現することが一番理解につながるかと思っている。
Q
偏西風蛇行の最大の理由は何か。
A
熱帯域の強さ、大きな山脈や海洋と陸上の温度差等が考えられる。
Q
日本付近の海面水温温暖化の理由は何か。
A
大気の気温上昇や黒潮属流の蛇行が考えられる。
Q
エルニーニョ現象、ラニーニャ現象はどの様な理由で起こるのか。
A
通常は太平洋赤道域の海流は東から西に流れ西側(インドネシア側)が温度が高くなるが、何らかの理由で東からの貿易風が弱くなり東側(ペルー沖)の温度が高くなるのがエルニーニョ現象。
一方逆に貿易風が強まり西側の海面水温が通常より高く、東側が低くなるのがラニーニャ現象。
Q
アトリビューションという実験結果は降水量が増加するとのことですが何パーセントぐらい異常気象に寄与しているのか。
A
16%の増加と言われている。
Q
推定の変動幅は。
A
今は具体的な数字を持ち合わせていない。
Q
都市部の気温上昇は著しいのか。都市化の影響の中身は何か。都市部の高温化の原因を温室効果ガスに求めるのは適切か。
A
コンクリートやアスファルトの保温効果があげられる。また都市化に関わらず温室効果ガスの昇温効果は全球的に影響を与えているといえる。
以上(石坂 直人