故郷が「全国区」に

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2024年10月1日 (No. 422)
髙野 直人
髙野 直人

私の故郷は滋賀県大津市。18歳まで過ごした後、故郷を離れて60年となります。県庁所在地とは言え、この間、他の地方都市と同様に町並みが寂れ、賑わいの中心であった商店街もシャッター通りとなっています。こうした中、一昨年から大津市が「全国区」となる現象が次々と生まれました。

ジレンマの上にあぐらをかく

最初が、一昨年(2022年)に直木賞を受賞した今村翔吾の『塞王の楯』の出版。物語は関ヶ原の合戦の前、東軍に組みした大津城城主・京極高次と西軍の戦上手・立花宗茂の攻防。籠城した大津城を守備するのが穴太 アノウ 衆(大津市坂本に居住する城壁づくりの石工集団)、他方、攻める側には長浜市の鉄砲職人国友衆。穴太衆の「最強の楯」と国友衆の「至高の矛」との闘いとして描いている。最後に京極高次は開城の決断をするが、ここでの攻防により西軍の主力の関ヶ原到着が遅れ、東軍に敗北したとも言われている。尚、京極高次の妻は淀君の妹お初である。徳川の世となってから大津城は廃城となり、多くの機材は彦根城築城で活用された。更に遡れば、大津城は明智光秀が築いた坂本城の機材が転用されて築城されたと言われている。水城であった大津城跡は湖岸に残されている。

ジレンマの上にあぐらをかく

次いで、昨年(2023年)、本屋大賞を受賞したのが宮島未奈の『成瀬は天下を取りに行く』。主人公は一風変わった女の子・成瀬あかり。大津市に唯一あったデパート西武百貨店の閉店に小学生の成瀬が立ち会うところから話が始まり、膳所 ゼゼ 界隈の生活が描かれる。小・中学校の名前はフィクションであるが、高校は私の母校「膳所高等学校」が実名で登場する。幼い頃から自立した女性として成長していく成瀬あかりに若者の支持が集まって本屋大賞に選定されたのであろう。その後、彼女はストレートで京大に合格し、琵琶湖親善大使等の経験をするが、これらは続編『成瀬は信じた道をいく』で描かれている。本書が描かれた膳所界隈は読者の「聖地」として、スタンプラリーまで始まっているとのこと。

そして最後の極めつけは、本年(2024年)の大河ドラマ『光る君へ』の紫式部と石山寺。平安時代には多くの貴族や公卿が「石山詣」をした。石山寺は聖武天皇の発願で天平19年(747年)に良弁が開山したと伝わる東寺真言宗の大本山である。明治以降、座主は旧華族の鷲尾家が継いでおり、現在の第53代座主は鷲尾龍華 りゅうげ さん。開山以来初の女性座主である。

以上

たかの なおと(834)
(ディレクトフォース 監事)
(元・帝人)