温泉三昧ひとり旅 ~鹿児島で銭湯&立ち寄り湯巡り~

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2024年9月1日 (No. 420)
佐々木 一成
佐々木 一成

かねてから気ままな“ひとり旅”を楽しんでいる。「細かい予定はたてない」「思いつくまま歩きまわる」「地元の人達との触れ合いを楽しむ」、これが私の旅の3原則である。もちろん家族や気の合った仲間と出かけることも多く、それはそれで楽しいものだ。でも、この3原則で旅をしようとすると、どうしても“ひとり旅”になってしまうのである。

ある日のこと、鹿児島の知人から「霧島の温泉付き貸別荘が空いているので遊びに来ないか」とのメールがあり、湯治を兼ねて久しぶりに鹿児島を訪れた。九州最南端にある鹿児島は、かつて私が銀行に勤めていた頃の赴任地である。そして、今も年に1~2回は訪れて現地の人たちと旧交を温めている。今回は1週間の旅程で2泊を鹿児島市内、4泊を霧島とした。

鹿児島の象徴・桜島

かつて鹿児島に転勤した際、市内の銭湯のほとんどが天然温泉だと知って驚いた。市内の源泉数は約270カ所あり、県庁所在地では全国一だという。当地で勤務した2年間は、ほぼ毎日近場の銭湯へと通い、休日は朝風呂会に参加していた。その当時の記憶が余りに鮮烈で、今回の鹿児島行きにあたっても、まずは市内の銭湯巡りから始めることにした。

銭湯・長寿泉

タオルと銭湯マップを片手にあちこち訪れたなかで特に気に入ったのが、「長寿泉」「みょうばんの湯」「天然温泉湯乃山」「桜島マグマ温泉」だ。「長寿泉」と「みょうばんの湯」は地元客主体の銭湯である。塩化物泉の源泉かけ流しで、湯に浸かりながらの地元客との温泉談義など、東京ではなかなか味わえない体験であった。ちなみに入浴料は420円であった(現在は460円)。

「天然温泉湯乃山」は、鹿児島の知人が市内で最も泉質が良いと薦めてくれた温泉だ。西郷隆盛終焉の地の近くにあり、市街地ながら鬱蒼とした樹木に囲まれた様子はまるで秘湯のよう。浴室の建物はかなり古く、ロッカーなどもないため手荷物は受付で預かってもらった。それほど広くない浴室内には、体を洗うための蛇口もシャワーもなかった。どうしたものかと迷っていると、先客が「源泉を送っているホースを湯船から取り出して、それを使って体を洗うんだよ」と親切に教えてくれた。聞けば地元の常連客で、ここの泉質に惚れ込んで通っているらしい。明礬を含む弱アルカリ性の湯はぬるめながら、よく温まる泉質で確かに病みつきになりそう。ファンが多いというのも頷ける温泉だった。入浴料は銭湯より少し高めの500円(1時間)であった。

鹿児島では、錦江湾を横断するクルージングが格安で楽しめる。乗船するのは鹿児島港と桜島港を結ぶ市営の桜島フェリーだ。潮風に吹かれながら片道約15分、200円のクルージングは快適そのもの。運が良ければイルカの群れにも出会える。桜島港で下船して、少し歩いたところに「桜島マグマ温泉」がある。泉質はナトリウム塩化物泉の強塩性で、光が反射すると虹色に光るという。噴火する桜島の恩恵を受けて、湯量は毎分300リットルもあるそう。湯の花が大量に舞う湯船は大きく、錦江湾を行き来する様々な船舶を眺めながらの入浴には何とも癒された。ここは国民宿舎の施設だが、地元や観光客の立ち寄り利用も多い。入浴料は390円であった。

次に訪れた霧島にも沢山の温泉があり、立ち寄り湯も楽しめる。ここでは4泊もするのだから色々な温泉を試してみようと考えていたが、結局は宿泊した貸別荘の温泉と、気に入った立ち寄り湯1カ所に何度も通うこととなった。

日の出温泉きのこの里(全景)

霧島へとレンタカーで向かう途中、何気に雰囲気の良さそうな温泉があったので立ち寄ったのが「日の出温泉きのこの里」である。入浴料300円を支払い、階下の浴場へと向かう。天降川に面した木造の浴室内には、「あつ湯」(約43度)と「ぬる湯」(約40度)の二つの湯船があり、外のウッドデッキには水風呂があった。炭酸水素塩泉の源泉かけ流しで、渓流を眺めながらの入浴が心地よい。地元客が多く、皆さん気さくに話しかけてくれたのは嬉しかった。ただ、長話となって風呂から出るタイミングを失し、のぼせてしまったのは良い思い出だ。

日の出温泉きのこの里(浴室)

湯上りには施設自慢のコーヒーを飲みながら、店主と雑談した。店主は、元競艇選手という変わりダネで、地元に戻りこの建物で手打ち蕎麦屋を始めたそう。結構、繁盛していたそうだが、なぜか突然に方向転換して立ち寄り湯と喫茶店を始めたらしい。「きのこの里」の由来を尋ねると、ここはもともと森林組合が建てた施設で、きのこを販売していたことから命名したとのことだった。渓流をのぞむ景観が素晴らしく、店主の人柄にも惹かれて霧島滞在中は毎日この温泉へと通った。

今回の旅では、昼間は温泉巡りのほか日本百名山の韓国岳(1,700m)や高千穂峰(1,574m)への登山、霧島神宮への参拝などで過ごし、夜は鹿児島勤務時代の知人と焼酎片手の歓談を楽しんだ。1週間の温泉三昧ひとり旅は、鹿児島ならではの銭湯&立ち寄り湯巡りで心身ともに癒された。

以上

ささき かずなり(1402)
(元・日本政策投資銀行)
(観光立国研究会)