セカンドライフの音楽ライフ

メンバーズ・エッセイ
撮影:神永 剛

2024年6月1日 (No. 414)
大村 光彦
大村 光彦

お歌の練習が終了し「この頃、歌うと“ノド”が枯れるのですがいい方法はありませんか」と先生に聞いたところ「それは”とし“ですね!」とつれない一言でおしまい。絶句していると「そうね、唾がいっぱい出るようにみんな口の中でグジュグジュやってますよ」と慰めにもならないお言葉でした。歌や音楽との付き合いは、自分がこどものころ詩吟を習い、音楽の成績はいつもよかったと自慢にもならない話と、あとは、サラリーマン時代のカラオケくらいでした。娘がお世話になった東京荒川少年少女合唱隊の運営にかかわった関係で、同合唱隊の常任指揮者米谷先生が、合唱隊とは別に主催する大人の合唱団に入団したことが、「セカンドライフの音楽ライフ」の始まりです。

【合唱団 イエーダーゼンガーの日々】

合唱団の名称は「イエーダーゼンガー」、ドイツ語では「Jeder ist ein Sänger」へたな翻訳をすると「みんな歌手」です。合唱団の主催者米谷先生は、「二期会」会員の現役オペラ歌手で、同時に複数の大学で教鞭をとるなど立派な経歴であり、声楽でドイツに留学された経験をお持ちでした。

50才代後半での入団で、毎週月曜日の夜7時から練習の日々が始まりました。合唱団のメンバーは当時すでに皆さん年齢65才超でなんと自分が最若手でした。素人同然の自分とことなり、既に10年以上の声楽キャリアがあり、最年長の80才代の女性メンバーは元音楽教師、ソプラノパートをリードするメンバーは、イエーダーの他に複数の合唱団に所属し、声楽の個人レッスンにも通いほぼ毎日音楽している方でした。入団当時、最初に皆で歌ったのは、バッハの古典的合唱曲で「クリスマスオラトリオ第2部」 (注1) でした。(注釈に解説と演奏がお聞きいただけるYouTubeアドレス記載しました。)

かなり難易度の高い合唱曲で、素人の自分には全く歯が立たちません。合唱練習用のCDを購入して自身のテノールパートを毎日暇があると聞きましたが、まず、高音部の声がでない、音程が外れる、歌詞はドイツ語で発音できないと3重苦でした。しかも当時の団員は、全員でも10人余りで男性は私とバスパートのメンバーの2人だけ、必然的にテノールは自分ひとりなので、音を外すとすぐに合唱が止められ、皆さんに迷惑をかける日々でした。高音部がどうしても発声できないので、すぐにバスに転向することになりました。バスパートでも出せない音もあり、ほかのメンバーに相談したら、皆さんボイストレーナのところに通っているとのこと。「そんなことなら早く言ってよ!」でしたが、遅ればせながらボイストレーナの門をたたき、それ以来、ボイストレーナの先生の所に通っています。イエーダーの米谷先生は長くドイツに留学されていたこともありドイツ語はペラペラで、歌詞のドイツ語の発音がおかしいとすぐにご指導が入りました。自分は学校時代第2外国語を間違ってドイツ語を取り、指導教授のお情けでなんとか単位をもらったレベルなので、歌詞を読むために楽譜のドイツ語にフリガナを鉛筆書きしていましたが、その成果もなく歌詞読みは四苦八苦の連続でした。イエーダーは人数が少ないこともあり、発表会はありませんでした。メンバーの多くは、他の合唱団にも所属していたので、イエーダーへ来る目的は米谷先生のレベルの高い音楽指導を受けることでした。米谷先生はとにかく耳がよく皆で一緒に合唱していても一人ひとりの声を聴き分け、歌詞の発音から音程にいたるまで一人ひとりに指導するという具合でした。もちろん指導の数が多かったのは自分ですが。

そんな日々が10年近く経過し何とか歌えるかな?となったところで、メンバーの高齢化とコロナ禍が重なり2020年の7月に解散いたしました。

セカンドライフの音楽ライフ

「クリスマス・オラトリオ The Christmas Oratorio (聖譚曲)」は、全6部64曲で J. S. バッハが1734年に作曲しました。上記はその楽譜の一部(無料での掲載可の楽譜)でこんな譜面が200ページ以上も続きます。下記のサイトから解説と演奏を聴くことができます。もちろんイエーダーの演奏ではありません。

『クリスマス・オラトリオ The Christmas Oratorio』解説と演奏 (注1)
https://www.worldfolksong.com/classical/bach/christmas-oratorio.html

【イタリア歌曲への目覚め】

イエーダー在籍中からお付き合いしているボイストレーナの先生の所には今も通っております。

ボイストレーニングは、歌いながらクラシックの発声法と音域を広げることを目指した練習が主体ですが、基本的に歌の練習のようなものです。合唱はイエーダーでさんざんやったし、勝手に歌いたいと思っていたので、こちらでは初めから独唱のみです。歌う曲はカンツオーネをはじめオペラの歌曲もイタリア語です。なぜイタリア語?かというと、イタリア語は日本語のローマ字読みで発音でき難しいドイツ語より発声を訓練するボイストレーニングをしやすく歌い易いので気に入りました。歌にふさわしい言語は何語?といったときにいつも思い出すのは、モーツアルトの時代のオーストリアで、話し言葉はドイツ語なのにオペラはイタリア語が常識だったことです。モーツアルトがドイツ語でオペラをやりたいといったとき、オーストリア皇帝が「おまえは馬の言葉でオペラをやるのか?」とモーツアルトに問うたそうです。もっともこの話は、当時モーツァルトの天才に恐れをなした宮廷楽長アントニオ・サリエリらのイタリアの音楽貴族達が裏で広めた話かもしれません。「馬の言葉」(ドイツ語圏の皆さんごめんなさい)を卒業しイタリア語に完全に転向しました。イエーダーでドイツ語に苦戦して結局モノにならなかった腹いせですね。

ボイストレーニングの最初の曲は「Caro Mio Ben(カロ・ミオ・ベン)」 (注2) で声楽を習う学生が初期に習う曲とのことでした。先生の主催で年末に必ず発表会があり、ボイストレーニングを開始した最初の年の発表会で歌ったのはもちろん「カロ・ミオ・ベン」でした。発表会といっても先生が主催する合唱団と、歌を習う生徒が出演し、その家族と知人が聴衆のささやかな演奏会ですが、毎年参加しています。今は年末のクリスマス発表会で歌う曲を仕上げることを目標に毎月2回、練習しています。練習頻度、実力含め一年に1曲仕上げるのがやっとです。昨年は、「黄金の翼に乗って」 (注3) その前の年はトスティの「セレナータ」 (注4) でした。今年は「誰も寝てはならない」 (注5) に再挑戦です。故パバロッティが歌った「誰も寝てはならない」のシングル盤は、クラシックとしては異例のイギリスのシングルチャートのトップ(ロック含め全シングルチャートトップ)を数週間に渡り記録し、全英だけで400万枚以上、全世界1200万枚以上の驚異的セールスを記録した曲です。どんな曲かは、YouTubeでパバロッティの曲 (注5) が無料で聴けますので一度聞いてみてください。発声法も少しはましになり声の音域も少しは広がったというくらいなのでとても「音楽ライフ」というほどではありませんが、まあ!大声出してストレス発散ができることを糧に続けています。副作用があり、DF事務所の会議室で会議をしていると、声が大きすぎて会議室の外まで聞こえるとのこと。「迷惑な」落ちとなりましたが、ご一読いただきありがとうございます。

年1回の発表会で演奏会のタイトルは「私たちのクリスマス」会場は台東区生涯学習センター「ミレニアムホール」
年1回の発表会で演奏会のタイトルは「私たちのクリスマス」
会場は台東区生涯学習センター「ミレニアムホール」
以上

おおむら みつひこ(1157)
(元 西武百貨店)
(映画同好会)
  1. 『クリスマス・オラトリオ The Christmas Oratorio』解説と演奏:
    https://www.worldfolksong.com/classical/bach/christmas-oratorio.html
  2. 『カロ・ミオ・ベン』の解説とパバロッティの独唱:
    https://classic-fan.com/caro-mio-ben/
  3. 『黄金の翼に乗って』解説:
    https://tsvocalschool.com/classic/va-pensiero/
    本来合唱曲ですが独唱で歌いました。独唱:
    https://www.youtube.com/watch?v=R9asGw9LvXo
  4. 『セレナータ』の解説と曲:
    https://tsvocalschool.com/classic/la-serenata/
  5. 『誰も寝てはならない』解説:
    https://tsvocalschool.com/classic/nessun-dorma/
    パバロッティの独唱:
    https://www.youtube.com/watch?v=S8F-lenWkIo