日本とアメリカの違いを譬えて、よく使われる表現に “農耕社会の国日本” と “狩猟社会の国アメリカ” というものがあります。この言葉に対する受け止め方は各人各様と思われますが、現在の日本とアメリカの違いを実にうまく言い表していると思い、今回ご紹介させて頂く次第です。
農耕社会では、春になると田植えの準備が始まります。田畑に水を引いて土を耕します。4月には田植え、夏には水の管理と稲刈りの準備が行われ、秋には収穫が得られます。農耕社会に特徴的なものは、① 稲作のためのインフラやプロセスが出来上がっており、このシステムをフォローし、守り抜くことにより稲作の目的が達成される、② 水の確保や水田の管理を含め、同じ時期に全員が同じことを行う、③ 結果として、関係者はほかの人が何をやっているか良くわかっており、コミュニケーションの役割は少ない、④ 稲作の既存のモデルの中での改善や工夫はあっても、大幅な変革は想定されない、⑤ オポチュニティーをとることより、いかに自然災害等のリスクを回避するかが重要となる、⑥ 一番の人為的リスクは水争い等の紛争で、これを回避するための調整がリーダーの役割となる、といったことがあげられるのではないでしょうか?
これに対する狩猟社会での特徴を上記①から⑥の順番で述べさせて頂きます。① いつ獲物が出現するかわからず、状況も異なるので、既存のシステムに頼ることが難しく、その時々の状況に応じたストラテジーと狩猟のためのモデルを設計することがリーダーの役割となる、② リーダーが設計したモデルにおける各人の役割は、「お前はシカを追え、お前は罠を仕掛けろ、お前の役割は弓を射ることだ」と異なる、③ 各人の役割を定義し、チーム全員に明確なメッセージを伝えるコミュニケーションが決定的なものとなる、④ 獲物との駆け引きの中でモデルの変革が要求される、⑤ 獲物が出現したというオポチュニティーを取らないと餓死してしまうので、果敢にリスクをとる、⑥ リーダーの役割は、関係者の利害の調整ではなく、ストラテジーやビジネスモデルの設定という明確に区分されたものである、ということが言えるのではないでしょうか?
このような社会背景の違いが、アメリカにおけるビジネスや雇用の場で頻繁に問題となります。
以前日本のクライアントが買収したアメリカの会社で、製造物責任訴訟が多発したことがありました。その問題の処理に絡み、日本人派遣社員と子会社の社員との関係がうまくいかず、経営上の深刻な問題にまで発展しました。私は弁護士であり、経営の専門家ではありませんが、訴訟や紛争解決のアドバイスを通し経営の問題についても多く関与してきた経験から駆り出されたわけです。そこで私が提案したことは、日本人派遣員とアメリカ人社員との集団討論を行うことでした。日本人派遣員に対しては、「アメリカ人社員の “良い点” と “改善して欲しい点”」またアメリカ人社員に対しては「日本人派遣員の “良い点” と “改善して欲しい点”」をそれぞれあげてもらい、忌憚のない意見を出し合うことでした。私はコーディネーターとして、各々の意見に対し、社会背景や慣行の違いを説明し、理解の促進に勤めました。その結果は驚くような成果をあげました。今までお互いが不満と思っていたことが、悪意に基づくものではなく、会社を良くしようという気持ちに変わりがないということが分かったのです。この討論をベースに “業務改善プロジェクト” を日本人派遣員、アメリカ人社員共同で立ち上げ、会社は見事に復活したのです。今ではこのアメリカ会社は日本の親会社のグローバル戦略のための無くてはならない会社として成長、親会社グループも業界世界No.1の地位を保っております。下記はその際、討議されたものの一部です。
日本人 ⇒ 米国人 | 米国人 ⇒ 日本人 | |
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リスクのとり方 |
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意思決定 |
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労働市場の流動性 |
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組織における
役割 (チームリーダーの あり方) |
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ハーモニー |
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公私の別 |
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あきやま たけお(1417)
(弁護士 元 丸紅)