おしゃれ大好き、服好き、アクセサリー大好きを自認する私の目には、欧州、特にミラノ、パリの紳士淑女のファッションはカッコいい。日本女性は肌がキレイで年齢より若く見えるので、まあまあ救いがあるが、日本の男たちは煮ても焼いても食えないとしか言いようがない。稀に例外に、「オッ」と思う男性を見かけることもあるが。どうしてでしょうか? 何故、日本の男性軍は、心根は良いのに外見の見栄えを良くしないのでしょうか? 認識していないのか、認識していても、外見に気を遣うことをしないのでしょうか? 入社面接や営業担当者の成功の第一条件は「第一印象」と、マニュアルに記載されているのにホントに不思議です。
本書の読後感想文を執筆しながら、これまで抱いてきた日本の男たちの不細工さを解消するための参考書として推奨することを思い付きました。ルネッサンス時代の歴史、政治、経済の学習教本であるが、ファッション学習も出来ます。渋いオジ様への変身に成功されて、DFの会合がより魅力的になることを夢見ています。
塩野七生さんの小説 三部作『緋色のヴェネツィア』『銀色のフィレンツェ』『黄金のローマ』の主人公は人間ではなくて都市です。と、塩野七生さんが後書に書いています。
三都市は以前、「海の都の物語」でベネツィアを、「わが友マキアヴェッリ」でフィレンツェを、「チェーザレ・ボレジア」でローマをとり上げていたが、この三部作は主人公を創作する作品にしている。男女二人の主人公が三都市を旅し、生活することで、16世紀ルネッサンスの代表的三都市を詳細に描いている。主人公二人以外は実在の人物であるから、本書を読むと当時の欧州とローマ法王の政治、経済、軍事、司法、民事、文化、芸術、住居、家具、衣服、装身具、財産管理、全ての史実を知ることができる。
ヴェネツィアとトルコの戦い、イタリアが神聖ローマ帝国皇帝に征服されていた時代のフィレンツェのメディチ家の財宝の歴史、ローマが永遠の都であった理由、ミケランジェロがローマを再構築した発想。興味は尽きることなく深まるばかり、読めば読むほど惹き込まれていく。本書では、都市の地理や社会背景の記述が詳しい上に、登場人物の姿かたちと、男性が身につける衣装や装身具の記述は微に入り細に入りであるから、読みながら情景が頭一杯に浮かんで来て、一人一人の息遣いと声が聞こえてくるようだった。
1978年6月、20代の人生を知らなかった小娘の時代、私はこの三都市ともう一つの重要な舞台、コンスタンティノーブル(イスタンブール)を同時に訪れる旅をした。美術館以外には服とバッグの買物に興じていて、何も見ていなかっただろう。本書を読んで、主人公と同じ場所を400年後に旅したことを思い出し、三都市を今、もう一度訪れて、道を進み、宿を取り、街を歩き、橋を渡り、館を見たり、道行く人々を見たいと思った。イタリアの美味い料理と太陽いっぱい感じるワインを飲み、青い空、白い雲、たわわな緑の樹木、湿気の無い風を身体中で感じて、古代のローマ人の囁きを聞きたい。
私は小学校高学年の頃から読書大好き、20代から50代まで読み切れない量の本を積ん読したが、それらを圧して何故これほどまでに本書に惹かれたのか、その理由を分析してみて、私は政治、経済、軍事が重要であると考え、歴史、文化・文明、芸術、住居、家具、衣服、装身具、財産管理を好み、その全てに興味を抱く人間であることを認識した。塩野七生さんの文章は、状況、情景、その背景、理由を記述するスタイル、そして衣服と装身具が大好きと見受ける。私の人生の羅針盤を見つけた気分に浸った。
主人公マルコ・ダンドロはヴェネツィア貴族のめっぽう良い男。相方のオリンピアは勿論、水も滴るいい女、頭がキレて、女気が強くて、ミステリアス。マルコが窮地を救ってくれたオリンピアに贈る「ラファエロの首飾り」とは、エメラルド、ルビー、真珠を繋ぎ、首から下げるのに、極細の金の鎖を15本束ねたもので、当時の民の年収の500倍の値段。差し詰め、現代の価格では5億円位か。宝石好きの私には、このプレゼントのくだりには興味深々、いつの日か、これと同じデザインの首飾りを作って贈ってくれる男にめぐり逢いたいと思うが、はなから夢物語。三部作のラストはあっけなく、ジ・エンド。読み終えた後、あまりにも辛い結末に涙を浮かべ、暗闇の中でコニャックを飲んだ。
てらさき しの(548)
(華写の会 歌舞伎同好会 蕎麦同好会)
(元・東レACS)