倉地育夫会員 中国で開催された
再生材に関する国際会議に出席して

活躍する会員(2024)

2024年11月6日
第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真1
2024年9月26日、27日の2日間にわたり、中国広東省仏山市にある広東仏山ヒルトンホテルにおいて「第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム」(以下「本フォーラム」)と称する国際会議が行われた。参加者は中国国内で事業を行っている、解体事業者、再生プラスチック事業者、改質プラスチック事業者、エンドユーザー企業である。
第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真2
本会議は「中国合成樹脂改性プラスチック分会」と「中国物資再生協会再生プラスチック分会(写真1)」との共同開催であり、特に後者の設立10周年にあたり、26日夜は参加者約400名による盛大なパーティーも行われている。パーティーでは日本の獅子舞の原形と思われるパフォーマンス(写真2)もあり、大いに盛り上がっていた。また、会場と同一のフロアで再生樹脂メーカーとリサイクルプロセスの機器メーカーによる展示会が開催されており(写真3、4)、この会議に出席(写真5)すれば、中国におけるリサイクル樹脂市場と技術の現状を理解できるイベントとなっていた。 この会議に招待講演者として呼ばれ、以下の内容を講演(写真6)しました。
第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真3
第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真4

招待講演では、再生プラスチックの物性トラブルをカオス混合で解決した体験及び、日本の再生プラスチックの現状と2022年に施行された法律について説明している。

第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真5
2022年度の日本における再生プラスチックの利用率は、自動車用プラスチックでは平均30%、家庭用電化製品では20%、そしてオフィス機器では10%程度である。オフィス機器で使用率が低いのは、他の分野よりも高い難燃性を要求される部品が多いためだが、再生プラスチックの難燃化には、コストと機械的特性の課題が障壁となっている。

再生プラスチックの用途拡大に成功したオフィス機器の事例について、プラスチック材料が使われるようになった歴史とともに説明した。コニカミノルタは、バイオプラスチックブームの時に将来のリサイクルを見据え再生プラスチック戦略に着手し、中国クモーサニー社と、バージン材でも高度な技術が要求される難燃性ポリマーアロイ2品種を再生プラスチックとして共同開発している。そして、2022年の新法が施行された時には再生プラスチック利用率が50%を超え、この分野のトップランナーになっていた。招待講演ではタイトルを「オフィス機器におけるリサイクル材料の活用と日本の法律を見据えた取り組み」としているが、それは、この共同開発の経験からである。

招待講演では、この他に2022年に施行された法律についても解説したのだが、小生のバックグラウンドについても紹介させていただいた。

第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム
写真6
ブリヂストン(当時ブリヂストンタイヤ)へ入社した1979年は、オイルショックとともに廃タイヤの環境問題が騒がれていた。新材料開発と環境問題、データサイエンスは筆者のライフワークとなり、世界初のホスファゼン変性ポリウレタンフォームの工場試作や、燃焼時の熱でガラスを生成させて高度な難燃性能を発揮する非ハロゲン系難燃化技術など環境対応を意識した研究企画を新入社員時代に成功させ実用化している。セラミックスフィーバーとなり、この技術を応用して、未来の夢と言われた電気自動車に必要なパワー半導体材料が高価な点に着目し、フェノール樹脂とポリエチルシリケートからなるポリマーアロイを前駆体にして高純度SiCを安価に提供できる技術を1983年に開発している。

コニカミノルタ(当時コニカ)へ転職後は、ブリヂストンで3カ月間ゴム開発を担当した思い出を大切にしてカオス混合技術を考えていた。2011年3月11日を退職日に設定し背水の陣で再生プラスチックの開発を中国企業と共同で行ったのだが、この技術は若い人たちに継承されコニカミノルタをオフィス機器分野で再生プラ活用のトップランナーとした。常に時代の先を読む努力だけでなく、後に続く人の努力による技術の継承がうまく展開して、今回の招待講演に至ったのだろうと推測している。

第19回中国国際プラスチックリサイクル会議および展示会ならびに家電・自動車プラスチックリサイクルサミットフォーラム

<参考>中国の再生材市場の現在と未来が語られたフォーラム

本フォーラムは、中国物資再生協会電子産品回収利用分会事務総長張賀然氏の「家電リサイクル・解体業界の現状と今後の動向」で始まり、2日間で12の講演が行われた。26日のパーティー前にはその日の登壇者と中国合成樹脂改性プラスチック分会長辛氏らによるパネルディスカッションが行われている。

張氏によれば、2023年末までの実績として廃家電の解体・処理により2,000万トン以上の解体製品と、750万トン以上のリサイクル金属(銅、アルミニウム、鉄)、リサイクルプラスチック、その他の再生可能エネルギーが中国で生産されたという。

日本では2001年4月に家電リサイクル法が施行されており、環境省データによると、平成13年(2001年)から平成27年度(2015年)まで、回収量は約80万t程度であり、この数値を基に公開された回収率を参考に2023年度まで見積もった140万tよりもはるかに多い。

これは、2004年7月25日に放送されたNHKスペシャル『にっぽんのゴミ、大陸へ渡る~中国式リサイクル錬金術~』でも報じられたように、世界に先駆け中国では、再生材市場が山東省や江蘇省、浙江省、広東省の4地区を中心に始まっていた。2017年に中国では廃材の輸入禁止措置がとられるのだが、それまで、世界の廃材の6割が中国へ流れ込んでいた。本フォーラムで他の講演者から自動車や事務機について再生材(貴金属からプラスチックまで含む)の量が語られるのだが、いずれも日本の約15倍以上の数値が出てきた。すなわち、中国の再生材市場は、すべての分野において人口の差異を考慮してもなお日本よりも大規模で発展を続けている。

しかし、問題が無いわけではない。賀氏の講演で、2019年に一連の新しい法律や規制が施行されたことにより、適格企業の急速な増加と、それに伴いスクラップ量の急速な増加が起きていることが紹介された。その結果、自動車リサイクル業界の規模が急速に拡大し収益も増大しているのだが、廃車業界には、高いリサイクルコスト、高い解体コスト、低い販売利益などの問題が内在している。リサイクル・解体事業者間の熾烈な競争と技術革新が不十分なため、適格企業の存続が厳しくなっている。輸出禁止政策をとりはじめた国際情勢も業界に変化をもたらしており、それに対応する国内政策で今後廃車業界が発展し、健全な廃車産業チェーンが構築されるだろうと説明があった。

但し、他の講演者から、EV車の解体・資源処分産業はまだ大規模な市場を形成しておらず、リサイクルや解体の技能が不十分で開発の余地があることが指摘された。そして、帯電酸素制御粉砕技術、電磁誘導酸素制御温度制御熱分解技術、効率的な乾燥粉末ストリッピングおよび選別技術によるリチウム電池のリサイクルおよび選別プロセスが紹介され、サプライチェーンの構築とともに今後の課題が提示された。

再生材として、プラスチックに限れば、現在主流の物理的リサイクルは低コストで推進しやすいが、リサイクル後の価値が低いので、プラスチックリサイクル技術の展開方向として高付加価値化が必要という見解を多くの講演者が指摘していた。

これに応えるように仇(Qiu)氏の講演では、再生プラスチックの特徴をデザインとして活かしてゆく提案がなされていた。そして、再生プラスチックを積極的に取り組みブランド戦略として推進している例を紹介していた。

また、フォーラムの最後にロジテック社の技術責任者が登壇し、環境問題に対する企業の姿勢と将来への展望が語られたが、製品の大半に再生材が使用されているとの説明には驚いた。まだ、ここまで再生材を製品に導入できている企業は日本に少ないのではないか。

フォーラムのコーヒーブレイクの時間に併設された再生材製造機器メーカーと再生材メーカーによる50社以上の展示を見ることができた。しかし、会場は満員だったため、27日の早朝に見学している。

驚いたのは、金属からプラスチックまで再生材を製造するプロセス技術は中国国内で完結しており、PETボトルのリサイクル材製造プラントも販売していた。これら各機器の外観から日本メーカーの設備と同等以上の性能を発揮するのではないかと推測している。

例えば、PETボトルのリサイクル材製造プロセスは、日本で一般的に行われているプール式ではなく、タンクを並べた流動層式プロセスであり、全体にコンパクトに設計されている。設備の断面説明を見ると、設置面積を小さくする工夫がなされ、独自の技術が開発されているのではないか。

再生プラスチックメーカーの中には、廃プラスチックの回収から再生プラスチックの製造まで手掛けているメーカーも存在していた。今日本では、廃材回収業者による再生プラスチック生産が立ち上がり始めたところであり、中国におけるこの分野の企業の技術レベルは日本よりも高い可能性がある。

以上(倉地 育夫
(株)ケンシュー 代表取締役・工学博士