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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2021/09/01(No.348)

歩き遍路に魅せられて

村上 哲也

私がお遍路に興味をもったのは、7~8年前になります。四国遍路開山のNHK新春特別番組を見たときでした。それは、様々な想いがあって歩き遍路をしている人々をルポルタージュしたものでした。毎日7~8時間30km前後、総計1,450㎞を60~70日かけ、札所とされている御寺巡りをするというものです。定年退職直後ということもあり、「何か現役時代とは違うことをしてみたい」「歩くのは好きだし、面白そう」といった漠然とした興味が湧いた事が始まりでした。


一番札所霊山寺にて

一番札所 霊山寺 りょうぜんじ で白装束に身を包み、重いリュックを背負って歩き始めたのは3月はじめでした。第12番札所 焼山寺 しょうさんじへの山道を歩いていると、くしゃみが止まらなくなりました。大杉の森の中なので花粉のせいだと思っていました。翌日13番 大日寺だいにちじまで何とか辿り着いたものの39℃の発熱。医師から「インフルエンザです。タミフルを飲んで1週間は寝ていなさい」と告げられました。わずか4日目にして、お遍路頓挫に追い込まれました。

2週間後、再度徳島へ。18番 恩山寺 おんざんじ への道筋で、2人で歩いている長身の女性達と一緒になりました。話を聞くと、日本に来たのは初めてというオランダの生物学専攻の学生でした。インターネットで四国遍路のことを知り、休みを取って来たとのこと。「なぜ外国まで来てお遍路をやっているの?」と尋ねると「Very Exciting and Enjoyable」と答えてくれました。再挑戦してまだ数日なのに苦行としか思えない私にとっては驚きでした。21番 大龍寺たいりゅうじ の山道では途中疲れ果てて東屋で1時間も眠り込んでしまいました。23番 薬王寺やくおうじへは朝から土砂降り。「寒い」「遍路道が分からない」「足の豆が潰れて痛い、続ける気がしない…」徳島県内を廻り切ったところで挫折・中断。


遍路宿で遭遇した
フランス人ジャーナリスト

数週間後、高知へ。27番 神峯寺こうのみねじから先は、晴れていれば左に土佐湾が広がる海岸沿いの一本道。その日は、あいにくの暴風雨。コンビニで休憩後、28番 大日寺だいにちじを目指して歩き始めて1時間。はたと立ち止まり、辺りを見回すと左にあるはずの海が右側に。27番札所に向かって戻っていたのでした。風に吹き飛ばされないように体を丸めて足元ばかりを見ていたせいです。結局、この日歩いた距離は50Km、時間にして10時間。酷使した足は、豆が潰れ、酷い靴擦れを起こしていました。宿まであと1時間のところで雨が激しくなり転倒。白装束は泥と怪我の出血で無残な姿になり、撤退を余儀なくされました。

1か月後、38番 金剛福寺こんごうふくじ から39番 延光寺えんこうじ に向かう道すがら、疲れて寄り掛かった金剛杖が真二つに折れてしまい、何となくなく不吉な予感。折れた杖のお焚き上げをして頂いた住職からも「滅多にない事ですが…」と言われてしまいました。何だか非難されているように思えて心中穏やかにあらず…でした。42番 仏木寺ぶつもくじ から43番 明石寺めいせきじに抜ける歯切峠、歩いていたら突然、山道が途切れてしまいました。不安を感じながらも峠に向かって登って行ったら完全に道に迷う結果に。1時間も山の中を彷徨いました。後で知った事ですが、豪雨の影響で遍路道が崩落したとの事でした。


高野山金剛峰寺こうやさんこんごうぶじ 奥の院前にて(空海が入滅した寺院 。四国お遍路が終わったらお参りすることになっています)

第75番札所 善通寺 ぜんつうじ 大師堂入り口(空海が生まれた寺院)

51番 石手寺 いしてじを参拝後、道後温泉の宿では思いもよらない目にあうことになります。露天風呂から出る時、ツルッと足が滑り体が宙に浮き転倒。全体重が身体を支えようとした右手首にかかってしまいました。激痛が走り、裸のまま1時間近くその場に蹲ってしまいました。救急病院での診断は右手首の複雑骨折。応急処置を受け、翌日帰路へ。地元の大病院で3時間を超す手術の末、利き腕の右手が何とか元に近い状態になったのは半年後。執刀してくれた先生に「お遍路を続けたい」と相談すると「今度同じ個所を痛めると右手が使えなくなるので、絶対に転ばないように」と言われました。ギブスをはめたまま愛媛へ。遍路宿で遭遇した他のお遍路さんからは、「手首で良かったですね。頭や体を支えてくれた…御大師様が守ってくれた…そう考えましょう」と皆同じコメント。

最終的に香川の88番 大窪寺おおくぼじで結願出来たのは、お遍路開始から1年以上たっていました。


無事88番大窪寺で結願

数年後、古希を迎えたところで逆打ち(88番から1番に向かってお遍路すること)をしました。反対に歩いていると順打ち(1番から88番に向かってお遍路すること)するお遍路さんと交差します。外国から来たお遍路さんが多い事に驚かされます。3人に1人は外国人と言った印象でした。話してみると、北欧・西欧・北米・豪州諸国から来ていて、医者、大学教授、経営者、ジャーナリストなど様々な職業の人たちでした。四国遍路に関する本(Lonely Planetなど…)、ドキュメンタリー、講演…各国で多数出ているそうです。

特に印象に残っているのは、オランダの大病院の院長夫妻の体験談。奥さんが不治の病になり、余命1年ぐらいと宣告されてしまいました。何らかのきっかけで四国遍路を知って単身でお遍路へ。多くの人に支えられ1年かけ成就。その後体調は年を追うごとに良くなっていき、ご主人も参加して毎年お遍路へ。今年で6年目になるそうです。院長先生はこのことを何度も講演され、TVでも放映されたそうです。同じような話を様々な国のお遍路さんに聞かされました。共通しているのは「やって良かった」という満足感。

高知の37番 岩本寺いわもとじに向かう途中で、若い人に支えられながら歩く90歳のお遍路さんに遭遇しました。思わず声をかけると「お遍路病にかかってしまって」と笑顔で話してくれました。今回で50回目になるそうです。人から見れば「物好き」にしか見えないでしょう。でも、私の心の中では「パンデミックが収まったら3度目のお遍路に出かけたい」という想いは深まるばかりです。エンドマーク

むらかみ てつや(082)
元日興證券国際部 

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