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一般社団法人 ディレクトフォース

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 2021/08/16(No.347)

ハンターの目から見た野生動物の実態

ーー日本における野生鳥獣の現状と課題を中心にーー

赤堀 智行

近年、野生動物の人間生活圏への出没が話題となり、その報道も多く取り上げられている。

野生動物の習性や真の怖さを知らずして、「かわいい」「可哀そう」の表現でしか捉えられない人々が増えているのが現状であり、残念なことである。

この50年、世界の生物は森林を中心とした開発や海洋での乱獲・汚染により全種の約70%が減少し、動物においては50万種が絶滅の危機にさらされている。

現在、世界の哺乳動物数は、小型哺乳類を除くとおよそ140億、①人76億 ②牛15億 ③羊11億 ④豚10億 ⑤犬9億 ⑥山羊9億 ⑦ウサギ7億 ⑧ねこ6億 ⑨水牛1.7億 ⑩馬0.6億となっている(下図)。


哺乳動物の概数(クリックPDF)

人類は全体の50%を超えており、牛や豚等の家畜は36%、犬猫のペットは10%、野生の哺乳類は2%に満たないのが実情である。

日本における野生鳥獣の種類は約700種、外来種は2,000種以上であり、鳥類は減少傾向にあるが、野生動物及び外来種は増加し、種によっては異常な発生も起きている。

鳥類においては、日本への渡り鳥はシベリアからと東南アジアからの飛来があるが、1980年以降急激に減少している。これはシベリア地方の森林開発の影響や温暖化によるツンドラでの餌条件が好転したものと思われる。また、東南アジアからの飛来数は、熱帯雨林での森林伐採による面積の減少が生息環境に大きく影響している。

しかしながら、日本での大型哺乳野生動物は明らかに増加している。

イノシシ・シカ・サルは年々増え続けており、農林への被害と共に人里にも現れ、人間生活にも多大な影響を与えている。本来、山野で生活していた野生動物の増加や人畜への被害要因には以下の背景が考えられる。

  1. 戦後の木材需要により広葉樹林を伐採し、スギやヒノキ等の針葉樹の植林を行い、動物の生息環境を妨げ、人間には花粉症を蔓延させた。
  2. 営農における高齢化や動物被害により、耕地放棄地が増加して動物の格好の棲家となった。この放棄面積は40万haであり、滋賀県に匹敵し、東京都の2倍の広さである。廃屋の数は200万戸で絶好の隠れ家となっている。
  3. 山村部農家での野菜や果物の残渣により、秋冬を通して放置することで動物たちの餌場となっている。

特に、外来種であるアライグマは全国的に生息地を拡大し、生態系バランスの崩壊・農林水産業被害・感染症等生活環境被害が各地で多発しており、早急な対策を講じる状況にある。

日本における主な野生鳥獣の被害実態(金額:百万円)
獣類 金額 獣類 金額 鳥類 金額
ニホンシカ 8,500 カモシカ 360 カラス 2,300
イノシシ 6,300 アライグマ 300 スズメ 500
サル 2,000 ネズミ 280 ヒヨドリ 640
クマ 370 ハクビシン 340 カワウ 10,000

上述のように①針葉樹林の拡大による山の餌場の減少 ②野菜や果物の残渣による里の餌場化 ③耕作放棄地での隠れ場の拡大等、また狩猟区域の制限や動物の習性も知らずして可愛さだけのペット感覚の要因も大きい。

動物は学習して生息地や個体数の拡大を図っているが、人間はこの数十年間規制ばかりで有効な対策が打ててない状況が続いている。

現在の主な対策は、以下に示す通りである。

要因の除去 警報システム 追い上げ 棲み分け棚 捕獲等

3大被害動物の生息数と捕獲数(推定)
動物名 被害額(百万円) 生息数(万頭) 捕獲数(万頭)
ニホンシカ 8,500 320 - 360 50 - 60
イノシシ 6,300 90 - 100 40 - 50
サル 2,000 15 - 18 2 - 3

上図のように日本における獣被害の70%以上を占めるシカ・イノシシ・サルは年々増え、各々適正数までの効果的な手段はなく、今後も増え続けるであろう。

典型例として、シカ・イノシシ・サルによる米被害では、春に植えた苗はシカにより、夏の出穂期はイノシシのヌタウチ(泥浴び)により、秋の実の時期はサルにより食べられ、これらの被害は約50万トンであり、新潟県の年間収穫量に匹敵する。

(左から、シカ、イノシシ、日本猿、アライグマ)

私は、30年間ハンターの立場から山野における野生動物の生息・狩猟環境、農林被害実態、被害者についてエゾ鹿を中心に見てきた。

シカの生息数は報告ベースとは異なり、明らかに増加している。5年ほど前は280-300万頭であったが、現在では320-360万頭と推定される。

日本の森林面積からのシカの適正数は45-50万頭と思われ、現在では7倍となっている。

現在の捕獲数や生息環境、対策から見ても減少要因は見当たりません。

シカの主な増加要因

  • 野犬や狼等の天敵がいない
  • 牧草地の増加及び温暖化による越冬率の上昇 
  • 出産年齢の低下
  • 狩猟者の減少

特に、シカによる農林業への被害実態は報告申請ベースの数倍であり、数百億円と思われ、その被害者への対応はごく一部となっている。

対策としては、捕獲が最も効果的と思われるが、狩猟者の高齢化に加えて銃所持者への厳しい規制、動物への国民性や狩猟環境規制等が大きな阻害要因となっている。

また、ジビエについても大きく取り上げられているが、日本では一時的なブームであり、ジビエの環境を知らずして個人のこだわりにすぎないのが現状である。

野生動物は飼育動物とは違い、餌環境や生息環境及び捕獲から熟成に至る処理過程を理解せずして、本来のジビエを美味しく食することは容易なことではない。


東京都猟友会の射撃大会にて(最後に満射してトップになり、プレーオフ直前の様子)

趣味の一つとして銃を所持し30数年、クレー射撃での明らかな目の衰え、そして狩猟における“命に向ける銃口”への複雑さが一層増し、銃を置く時期が近づいてきたことを感じている。エンドマーク

あかぼりともゆき(899)
技術部会(医療懇話会主宰 経済産業懇話会)理科実験G DF百歳社会総研  元アストラゼネカ、英国ISIS

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