( 2017年4月28日 掲載 )
3月22日(水)学士会館にて、169回講演・交流会が96名の参加をいただき15時から開催いたしました。
講演会は、株式会社ユーグレナ代表取締役社長出雲充氏に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました』というテーマで、ご講演いただきました。
お話しは、保坂事務局長による講師紹介に続き、出雲充氏の『全世界のミドリムシを代表してお礼を申し上げます』との言葉から講演が始まりました。
講演内容は、下記の3点です。
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ごく平凡な家庭で育った自分は、社長になりたいとは思っていなかったが、大学1年生の時に行った初めての海外であるバングラデシュでの経験が今の自分を作るきっかけとなりました。
バングラデシュは、1.55億人が北海道の約2倍の面積に住む世界一の人口密度が高い所です。また6千万人が年収約3万円という最貧国です。1998年8月の1ヶ月間グラミン銀行というNGOで仕事をしました。それまでは、お金を稼ぐというビジネスに対して否定的なイメージを持っており、社会貢献は無償で行うべきと考えていました。しかしグラミン銀行での成功事例をみて、今後ビジネスを起こすのであれば〈三方よし〉のビジネスに関わりたいと強く感じました。
850万人の方がグラミン銀行で救われましたがまだ大勢の人が困っています。行くまでは最貧国なので食べ物がなくて飢え死の状態と思っていたのですが、皆3食日本人の3倍の米食をしています。しかし、子供の体形はおしなべて発達不良で足が細く、お腹がほっこりしています。原因は、米食のみで肉、卵等の蛋白質が不足していることにより筋肉が出来ない事でした。加えて蛋白質不足は免疫力低下をもたらします。バングラデシュに行く前は、貧しい国では食べ物の量が少なく飢えていると考えていたのですが、米、芋、玉蜀黍、豆等は山程あるにもかかわらず、栄養失調で困っていることを知り、食べ物は量ではなく質の改善が課題であると自覚しました。世界には10億人を超す人が栄養失調で困っているので帰国したら栄養の勉強をしてなにか栄養価の高いものをバングラデシュにもっていければといろいろ探しました。
大学3年の20歳の時、ミドリムシの研究をしないかと勧められました。ミドリムシは光合成をする植物ですが動物の様に動く事ができます。ミドリムシは、人間が生活に必要な59種類の栄養素を全て作ることができます。これで夢を叶えることができると思い、ミドリムシを扱っている企業に就職したいと考え、どこかあるかと聞いたところ、そのようなところはない、早く諦めた方が良いと言われてしまいました。それは、2つの難問題があるためでした。
日本全国の英知を集めて2005年に屋外でミドリムシを育てることに成功しました。
全ての栄養素を持ったミドリムシの錠剤であれば世界津々浦々に配ることができるので、10億人の栄養失調で困っている人々に届けることができます。
貴重な資源である農地は、食料を育てるべきでありますが、現在のバイオ燃料は農地で生産されているため食料生産用の農地が侵食されています。ところがミドリムシは、農地以外、海でも砂漠でも、管理されたプールであれば作ることができます。現在、作ることが難しいと言われている航空機のジェット燃料を国産のミドリムシで作ることに挑戦し2020年実現を目指しています。
17年前ミドリムシの可能性を説明してもほとんど聞いていただけませんでした。石垣島でミドリムシの量産ができる技術が確立できたので、まず100社に売り込みを開始しました。説明している過程で理解を示す企業も出てきたのですがいざ契約となったとき、採用実績がないということで商談が終わってしまいました。
2006年1月から2007年12月までの2年間500社を訪問しましたが、1社も採用していただけませんでした。世の中の厳しさをつくづく実感しました。
そのような時、501社目の伊藤忠商事が採用してくれました。2008年5月から伊藤忠商事が販売することになりミドリムシは飛ぶように売れるようになりました。その後は業績を順調に伸ばすことができ、2014年10月3日に、全国1,773社の大学発ベンチャー企業の中で初めて東証1部に上場することができました。10年前1,000万円で設立したベンチャー企業が1,000億円の企業になりました。伊藤忠商事が出した1万円はすべて1億円になりました。断った500社は皆同じで『ミドリムシ 聞いたことがないからリスクだ』と言い、501社目の伊藤忠商事だけは『ミドリムシ 聞いたことがないからチャンスだ』と言って採用しました。
若者、学生或いは大学の先生が皆様の所に相談に来た時、『聞いたことがないからリスクだ』と考えず『聞いたことがないからチャンスだ』と考え、『どのようにしたら社会に役立てることができるか』を前向きな考えで、皆さんの知見・経験を役立てて頂きたいと切にお願いします。
イノベーションは適切な科学技術と試行回数との掛け算によって誰でも起こすことができます。これは、17年間のミドリムシに関わって得た結論です。是非、情熱をもって挑戦している、若者、学生や大学の先生がいたら是非応援していただきたいとお願いいたします。
若者は、メンター(尊敬できる人)とアンカー(先生との約束を思い出してくれるもの)があれば、挑戦し続けることができます。私にとってのメンターはグラミン銀行創設者のユヌス先生であり、アンカーはバングラデシュで購入したTシャツです。自分が偉くなりたい、自分が大金持ちになりたいというモチベーションでは、500回、1,000回や1,500回の苦難を乗り越えることはできませんが、尊敬する人との約束を守るためにはどんな困難なことにも若者は実践することができます。
ユヌス先生とは『貧困博物館を作ろう』と約束をしました。現在バングラデシュでユヌス先生とグラミン・ユーグレナということで毎日7,000人の子供達にミドリムシの給食を食べてもらう活動を始め、お蔭で全員栄養失調がなくなりました。
以上
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(森川紀一・記 三納吉二・撮影編集)