( 11/03/05 )

一般社団法人 ディレクトフォース 4月勉強会

テーマ:「国際法から見た尖閣諸島問題」

 

藤田久一氏

一般社団法人ディレクトフォースの4月勉強会は、4月15日学士会館に於いて会員ほか約150人が出席して開催されました。

今回は国際法の権威者である関西大学名誉教授藤田久一氏をお迎えし、「国際法から見た尖閣諸島問題」というテーマで講演していただきました。講演の要旨は次のとおりです。

「尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存しないとする日本の立場に対して、中国は歴史的根拠に基づきその領有権を主張し両国は真っ向から対立している。尖閣諸島をめぐって両国間に国際法上の紛争が存在するのが現状である。国際紛争の解決について国連憲章は武力行使を禁じ、平和的解決を基本原則とする。直接交渉による外交的解決を図るか、国際裁判で司法的解決を求める、あるいは仲裁裁判に委ねるかであるが、いずれについても中国が同意する見通しが立たない。第三者による仲介についても、有力な第三国と考えられる米国が仲介国になることを避けているきらいがあり、この問題の解決は極めて困難である。そうであれば現状(実効支配)の維持をつづけ、両国間に緊張緩和、さらに信頼醸成が実現するのを待つしかない」というものです。

1.巡視船と中国漁船の接触事件

事件発生後、平成22年9月25日に外務報道官が日本の立場について談話を発表した。その内容は、尖閣諸島は歴史上、国際法上疑いなくわが国固有の領土であり、これを有効に支配しており領有権問題は存在しない。中国漁船の公務執行妨害事件としてわが国法令に基づき対応したというもの。

これに対して中国は同日、外交部声明で次のように表明している。

この事件は、中国の領土主権、中国公民の人権を侵害する行為である。釣魚島及び付属する諸島は古来中国の領土であり、争う余地のない主権を有している。したがって日本側の対応、司法的措置は不法であり、無効であるから謝罪と賠償を求める。

このように、日本の立場を表明する談話と中国側の声明は真っ向から対立している。

2.尖閣諸島問題への国際法的アプローチ

@ 国際法上の領域取得の権原(Title)

領域取得の権原とは国際法が認める事実であり、原始取得の無主地先占あるいは添付、承継取得である割譲、併合、征服、時効がある。

A 無主地先占の法理―パルマス島事件仲裁裁判

無主地先占の有名な先例としてパルマス島事件仲裁裁判がある。

パルマス島をめぐり、アメリカとオランダの間で領土権争いが生じた事件。外交交渉での解決が上手くいかず、仲裁裁判所に付託された。

アメリカの主張は、パルマス島はスペインが16世紀前半に発見したものであり、アメリカは1898年のパリ条約でスペインから割譲を受けた。国際法により発見の効果としてスペイン領土であったというもの。

スイスの国際法学者フーバー仲裁員は、当時の実定法でたとえ発見が領域主権を付与したと解しても、決定期日における国際法によれば領域主権は発見だけでなく、実効的支配という先占の要件を満たす必要があるが、スペイン、アメリカはその要件を満たしていない。

一方オランダは、オランダ東インド会社が先住民と約定を締結した。東インド会社の行為はオランダの行為とみなされる。その結果オランダは主権を獲得したといえる。また外部に分かるように実効支配を行ったかが判断の分かれ目となるが、定期的に巡視することも実効的支配の一つで、社会的占有となる。実効支配の程度を比較考慮するとオランダの方がスペイン、アメリカよりも強いと判断した。

3.尖閣諸島の国際法上の地位

@ 中国側の主張

1971年の中国外交部声明によれば、

  1. 釣魚島などの島嶼は明代に中国の海上防衛区域の中に含まれていた。琉球いまの沖縄に属するものでなく、中国の台湾の付属島嶼であり、台湾の漁民は釣魚島などの島嶼で生産活動にたずさわってきた。琉球は明国と朝貢関係にあり、琉球王は明国皇帝の冊封を受けていた。こうした歴史的事実から中国の領土である。
  2. 日本政府は中日甲午戦争(日清戦争)を通じてこれら島嶼をかすめとり、清朝政府に圧力をかけて1895年「台湾とそのすべての付属島嶼」及び「澎湖列島」の割譲という不平等条約(馬関条約いわゆる下関条約)を調印させた。
  3. 米日両国政府が沖縄「返還」協定の中に、釣魚島などの島嶼を「返還区域」に組み入れることは全く不法なものであるとする。

中国の態度は沖縄返還協定が締結された1971年に表明されたもので、その少し前に東シナ海海底に石油、天然ガスが埋蔵されているという国連調査が出された頃から主張されてきたもの。その後の日中平和条約署名に際し、搶ャ平副主席が来日したとき記者会見でこの問題は一時主張を棚上げにすると述べている。

A 日本の基本見解

外務省が出している基本見解は、

  1. 尖閣諸島は1885年以降政府が沖縄県当局を通ずる等の方法により再三にわたり現地調査を行い、単にこれが無人島であるのみならず、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを確認したうえ、1895年に現地に標杭を建設する旨の閣議決定を行って正式にわが国の領土に編入することとしたものであるとして、国際法の無主地先占の法理を主張する。
  2. 1895年発効の下関条約に基づき清国より割譲を受けた台湾および澎湖列島には含まれていない。
  3. 尖閣諸島はサン・フランシスコ平和条約第2条においてわが国が放棄した領土のうちには含まれず、第3条でアメリカ合衆国の施政下に置かれた。中国が尖閣諸島を台湾の一部と考えていなかったことは、この事実に対してなんらの意義を唱えなかったことから明らかである。したがって尖閣諸島は沖縄返還協定によりわが国に施政権が返還された地域に含まれる。
  4. 従来中国及び台湾当局が歴史的、地理的ないし地質的根拠としてあげる諸点は中国の領有権の主張を裏付けるに足る国際法上有効な論拠といえない。

というもので、この基本見解は有力と考えられる。

B 法的検討

藤田久一氏中国は領有権を先占の法理ではなく、冊封使の記録など歴史的根拠、歴史的権原によると主張している。こうしたことが国際法上の権原を生み出すかという問題がある。

パルマス島事件仲裁裁判で発見の法理に関して、発見当時たとえ領域主権を付与されたとしてもそれが実定法といえたのか、国際法がいつから始まっているのかということにかかわる。国際法は主権国家が策定するが、近代国家がまだ出来ていなかったのではないかと判断した。

中国は文献に基づいて歴史的事実を証明するのであろうが、近代国際法が適用されるようになってから、先占の法理に基づいた占有を行っていないのであれば、領有権主張は無理でないかという理屈になる。中国に関しては、加えて日中間でいつから近代国際法が適用されるようになったのかという議論もある。

日本は国際法から見ると、先占の法理にしたがっている。これを認識して1885年に現地調査を行い、無人島であり清国の支配が及んでいないことを確認した上で、閣議決定して標杭を設定した。そのあと私人に貸与して開拓させている。これは占有の一つの仕方といえる。また返還されてからは巡視船によるパトロールを行っている。これによって権利を有したと考えられる。

3.解決方法の検討

領土問題について国際法を適用して解決することが出来るわけであり、それが望ましい。

領土問題は国際法の問題であり、国際法を適用して裁判によって決着をつけることが出来る類の問題である。

@ 国際裁判の可能性

国際社会において相手国を被告にして国内法にもとづき裁判をすることは出来ない。したがって国際裁判によるしかない。国際裁判によるとした場合、国連の司法機関として位置づけられた常設の国際司法裁判所に訴えて司法的解決を求める方法がある。この場合、付託することにあらかじめ同意していること、すなわち裁判所に管轄権を認めることの同意が必要である(選択条項受託宣言)。中国は受託宣言していないので国際司法裁判所に管轄権がない。中国が日本と同意して国際司法裁判所に管轄権を認めることは可能であるが、不利な立場にある中国が同意することは期待できない。

もう一つは仲裁裁判による方法がある。裁判官をだれにするか、裁判所、適用法規をどうするかについても合意によって決めることができるが、中国は応じないだろう。

A 裁判以外の解決方法の可能性

外交的解決が望ましいが、領土問題を直接交渉で解決することは極めて困難である。第三者仲介は、日中両国に影響力があると思われるアメリカは仲介することを避けたいとの態度をみせている。国連憲章は国際紛争を解決するには平和的解決でなければならないことを原則としているが、裁判や直接交渉あるいは第三者仲介による解決ができないとすれば、現状(実効支配)の維持を続け、両国間に緊張緩和、さらに信頼醸成が実現するのを待つしかないともいえる。

 

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講演後の懇親会で、講師の藤田久一氏を囲み歓談する皆さん