2018/6/16(No271)
安倉史典
2015年の秋、私は定年退職を翌年7月に控え、今後の身の振り方を思案していました。いくつかの選択肢を考えましたが、もう一度、今までの会社生活を振り返り、体系的に経営学を勉強してみよう!と思いたち、中央大学戦略経営研究科(ビジネススクール)に2016年4月から通い始めました。
昨年12月の日経新聞夕刊の記事に、『人生100年時代 学びに定年なし ! 』という見出しで、「人生100年時代といわれるなか、定年退職後などに大学院に入り研究活動を始めるシニアが増えている。若いころの憧れや、仕事を通じて芽生えた真理を極めたいという思いを実現するものだ。社会貢献活動、余暇の充実などに加え、「知の探究」は第二の人生を豊かにする選択肢になりそうだ。」と書いています。
文科省によると、人生のまとめの意味で晩年に研究活動を始める61歳以上の大学院修士課程入学者数は、2016年度で324人にのぼり、その数は年々増加傾向にあるといいます。
前置きはこのくらいにして、私の大学院(ビジネススクール)での経験談をご紹介しましょう。
中央大学戦略経営研究科は、(経営)戦略、マーケティング、ファイナンス、人的資源管理、経営法務の5つの専門分野の科目群が設定され履修することができます。私の場合は、法務的視点から経営を見てみようと、専門分野を経営法務として勉強をスタートさせました。2年間の学生生活の内、初年度は単位を稼ぐという目的もあり、夜間、土日を含めて週3日学校に通いました。履修科目は、専門分野である経営法務(会社法)、コンプライアンスと内部統制、現代契約法、労働法、行政法、倒産法、知財法等を履修しました。この他、グローバル経営戦略論、知識創造戦略論、財務報告論や実証研究基礎等を、経営学全般にわたる科目の中から選択し履修しました。授業での教授の話に、「学問の世界と違って現実は理論通りにいかないぞ!」とか、「経営理論の真逆で成功するケースもあるのでは?」等、過去の会社生活での経験と重ね合わせての勉強は、興味深いものがありました。
学位授与式で賞状をいただいた | 修了式の後学友たちと喜びを分かち合う |
財務報告論では、一橋大学の伊藤邦雄先生(中央大学ビジネススクール特任教授)から、「何故、日本企業はROE(自己資本利益率)8%を目指さなければならないのか?」等、経産省が2014年に発表した「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築(通称:伊藤レポート)」の背景と考え方を直接、聴講することができました。2年目からは、論文執筆の為のプロジェクト研究が始まりました。修士論文は、一般的な企業経営論から少し離れますが、指導教授のもとで「わが国における人口減少社会の到来とその課題」に着目し、公共事業分野の事業評価に関する研究と決めました。
具体的テーマは、『PFI(Private Finance Initiative)事業の事業評価に関する考察-新たなPFI事業の評価方法-』としました。2017年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017(Society 5.0の実現に向けた改革)」においても公的サービス・資産の民間開放(PPP/PFIの活用拡大等)について、成長対応分野や成熟対応分野において講ずべき施策等が述べられています。公共事業に関する今日的課題は、1)少子高齢化・人口減少社会を見据えた公共サービスへの対応、2)我が国の財政課題に起因する低廉且つ良質な公共サービスの提供、3)高度成長時代に投資した社会資本の維持管理・更新投資の着実な実行、4)民間事業機会を提供することによる地方経済を含む我が国経済の活性化等が指摘されています。
PFI事業とは、民間資金と民間の経営ノウハウを活用して庁舎や文化施設、上下水道事業(処理施設含む)、病院、空港等の設計・建設及び維持管理・運営を行う公共事業の手法の一つで、現在、約30の分野で全国607件の導入事例(2015年度末現在)が報告されています。しかしながら課題もあります。PFI事業は、実施期間が平均15年と長いこともあり、計画段階から実施修了段階までをスルーして、事業の成果を適切に評価する仕組みが存在しないこと、これまでのPFI事業の導入実績は比較的事業規模が大きいこともあり、全国市町村の約3割程度にしか導入が進んでいないことが課題としてあげられます。
PFI事業の拡大によって、公共事業を質的に活性化するにはやや力不足であるとも感じましたが、なんとか論文を完成させることができました。このビジネススクールでの2年間は、もちろん私が最年長で、入学当初は少し緊張しましたが、同級生(30才代から50才代の起業家や会社員、約50名強)との交流もあり、以前の会社生活では得られなかった貴重な体験をすることができました。
また、今年4月からは研究のフィールドを法政大学公共政策研究科博士後期課程に移し、公共事業がサポートする“都市”や“まち”の機能に対して「自動走行システム技術の発達がどのような影響を及ぼすか?」といった課題に着目し、研究テーマを『Connected Car システム技術の発達が都市機能に与える Social Innovation の可能性について』(ちょっと長い文章のテーマではありますが)として、研究活動を継続しています。
やすくら ふみのり ディレクトフォース会員(1024)
元 東芝