元のページへ戻る 

(2018年6月28日 掲載)

DFガバナンス部会 第13期小研究会 研究成果発表会

2018年6月6日、日本ビル大会議室において第13期小研究会の研究成果発表会が開催されました。参加者は招待客も含め64名とこれまでで最も多い人数となり、DF会員を始めとする関係者から高い関心を集めました。昨年(2017年)12月以来、2つの小研究会グループは、それぞれ20回近い会合を持って議論・研究を重ねてきました。

そこでの数多くの事例を含めた実務経験者の視点からの発表は、聴講された方へのアンケート結果でも大いに好評を頂きました。発表会終了後の懇親会では、それぞれの小研究会発表メンバーも加わり、多くの出席者との活発な意見交換や歓談が行われました。

  • Aグループ
    テーマ:「『企業文化の研究』―東芝と日立を比較して―」
    グループリーダー:西村二郎氏 他メンバー5名
  • Bグループ
    テーマ:「リスクマネジメントのベストプラクティス」
    グループリーダー:藤村峯一氏 他メンバー4名
  • 開催日時:2018年6月6日(水)午後2時〜5時
  • 場  所:日本ビル大会議室

【要旨】

Aグループ:「『企業文化の研究』―東芝と日立を比較して―」

東芝、日立は日本を代表する総合電機メーカーである。2015年5月、新聞報道により東芝の不正会計が明るみに出たが、その後も原子力事業の不振も重なり、東芝は現在も難しい経営の舵取りを余儀なくされている。一方、日立はリーマンショック後の経営危機に際し巨額損失を計上して「選択と集中」経営を進め、業績は回復傾向にある。このように対照的ともいえる両社の行動の違いを企業文化という観点から考えてみた。

その結果、企業文化と経営危機との関係にはさしたる「有意性」はないものの、経営が順調にいっているときには大いに関係があるという結論に至った。企業文化は、企業が存続できるよう形成され、状況の変化に応じて修正されていく。創業者は使命感にも似たアニマル・スピリッツを持って創業する。それは算盤を弾いて行われる行為ではない。それだけに事業の立上げに成功したとき、大きな自信となって企業文化の形成に大きな影響を与える。優良企業は「良い企業文化」を持っているが、逆は必ずしも真ではない。この点、東芝と日立の創業者は並々ならぬ使命感を持ち、もの作り事業を立ち上げようとした。

ただその後両社の帰趨は分かれる。日立が経営の独立性を保つことが出来、創業者小平の「和、誠、開拓者精神」が根付き、後継者の手により強化・継承された。一方、東芝の前身は立ち上げ途上に経営が行き詰まり、三井財閥の傘下に入った。これに伴い経営学の定石に叶う経営が行われるようになり、経営に関するアニマル・スピリッツは稀釈された。しかも労働争議において経営トップが当事者能力を欠き、外部から社長を招聘することになり、その結果経営に関する企業文化はますます霞んでしまった。さらに社長経験者が財界で活動するという慣習が根付いてしまったが、名誉欲のためにポストを望む人物が出ると今回の東芝のような悲劇が起きる。結局、東芝ではガバナンスが機能しなかったことになるが、NAND型フラッシュメモリーに代表される優れた技術がある。また原発の廃炉作業といった大変な仕事ものしかかっているが、これは技術力を磨く絶好のチャンスと前向きに捉えることができよう。再生東芝に対するエールを送りたい。

Aグループの詳細レポートは以下をご覧ください。

Bグループ:「リスクマネジメントのベストプラクティス」

日産と富士重工の完成車検査の手抜き、神戸製鋼のデータ改ざんなど不祥事が後を絶たない。多くの不祥事は企業内のガバナンスが正常に機能していれば防げるし、防止のためのコストは不祥事の収拾コストより遥かに少ないことはほぼ常識であるにもかかわらず、次々に不祥事が続くのはどうしたことなのか。企業の経営環境に変化をもたらすものとして「グローバル化」「IT関連の変化」「企業内部の変化」といったものがある。しかしながら、変えてはいけないものとして、「組織の個々人の倫理意識」がある。この企業理念を元に、企業内外部の両者の変化に対応可能な「リスクマネージメントのベストプラクティス」について検討・研究した。

最近のリスクマネージメントは、新規事業への進出やM&Aなどの戦略的活動もしっかりとその範疇に取り入れることにより、企業経営の根幹として位置づけられるようになってきた。また、企業経営においては、日々新しい活動を展開するほど新たなリスクが発生するので、先行的にリスクを管理することも必要となっている。このようなリスクマネージメントそのものへの視点の転換により、世の中と自身の企業の変化を積極的に取り入れ対応する思想、組織、IT技術を中心とするサポート体制を理想的に整えることが「リスクマネジメントのベストプラクティス」と言えるのではないかというのが結論である。理想とする方向性は判った。しかしながら、プラクティスと呼べる実行性まで理解と手法の開発が実行可能なレベルに至っているかという点では、現状では大きな疑問点がある。2017年版のCOSOに示されるように、リスクマネージメントの解釈の浸透度合いについては、企業内部におけるリスクマネージメントへの理解が従来の損失の最小化レベルに止まっているのが現状ではないだろうか。また、報告書において引用した先端企業のIT活用例は理想的には見えるものの、実行性や投資などの面からは普及には時間が掛かるように思える。

Bグループの詳細レポートは以下をご覧ください。

以上